経済 2018/01/15

無国籍企業の誕生




アメリカの変貌については、私自身、次のように考えています。


第二次世界大戦後、アメリカは超大国として世界の覇権を握りました。国内政治では共和党・民主党による二大政党制が堅固でした。


しかし、共和党も民主党もエスタブリッシュメントによるエリート支配という点では共通しており、二大政党制がフィクションにすぎないことがトランプの登場で明らかになりました。


もう一つの問題は企業活動です。私は1977(昭和52)年から1979(昭和54)年までクレアモント大学に留学しており、そこでピーター・ドラッカー教授の講義を聞きました。


ドラッカー教授はマルチ・ナショナル・コーポレーションという用語を作った学者ですが、「本当のマルチ・ナショナル・コーポレーションなどない。企業には必ず国籍がある」と言っていたことを思い出します。しかし、今では本当にマルチ・ナショナル・コーポレーションが誕生してしまいました。


1950年代から60年代、自動車メーカーであるGM(ゼネラルモーターズ)が栄えることがアメリカの栄えることだと言われていました。1980年代のレーガン政権時代はアメリカ企業が強くなることがアメリカという国家が強くなることだと考えられていました。しかし、今はそうではない。アップルやゴールドマンサックスが収益を増加させても、アメリカが栄えることを意味しません。なぜ、このような現象が起きたのか。


本来、国家という枠組みの中に大企業という国民がありましたが、国際化が進むことで大企業は無国籍企業となり、国家から分離した勢力(アンチ国家)になりました。こうした無国籍企業や富裕層には国益という発想がありません。


それを実証する一つの例がパナマ文書です。これにより多くの大企業がタックスヘイブンを利用していた具体例が明らかになりました。


マルクス主義の論理では大企業が国家を独占すると位置づけられていますが、現在の資本主義において大企業は国家と分離してしまっています。大企業は低賃金労働力と製造拠点を海外に求めることで生産を拡大する一方、タックスヘイブンを利用して租税を回避する。国境の内側にとどまって活動するという発想はないわけです。つまり、国籍を喪失したのです。


トランプ政権の課題はこうした無国籍企業の問題にどう対処するかということです。


国務長官に就任したレックス・ティラーソンは多国籍企業であるエクソンモービルの会長です。しかし、エクソンモービルはアメリカの国益と重なる部分を多く持っている企業です。ところが。そうではない多国籍企業のほうが多くなってきている。ティラーソンを国務長官に指名したことは、トランプがアメリカ企業と国益の関係を是正しようとしていることの表れだと思います。




2017年9月1日発行
藤井厳喜・宮崎正弘著『韓国は日米に見捨てられ、北朝鮮と中国はジリ貧』
第2章 アメリカの大変貌ーP84





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