国家解体の危機が現実に
オバマ政権の特徴はグローバリズムを積極的に推進してきたことにありますが、このグローバリズムによって先進国のデモクラシーが危機に瀕しています。大局的に見れば、西洋文明、ヨーロッパ文明の危機と言ってもいいでしょう。
現在、EUの中心を担っているドイツは完全なグローバリズム幻想、国家解体のリベラル思考に囚われています。アンチ・ナチズムにこだわるあまり、国家の解体によるグローバル化こそ正義であると位置付ける極端な思想です。その結果、「ドイツのための選択肢」(AfD)はナチスとまったく関係ない政党でありながら、他の政党やメディアからナチズム的政党として集中攻撃されています。
一方、フランスの場合は第二次世界大戦後も健全なナショナリズムが生き延びる余地があったため、今回の大統領選挙でもルペンが35%の支持を集めることはできました。しかし、フランスでもナショナリズムは排撃されています。
現在、EUの中心国はドイツとフランスですが、国内の事情はこのようにまったく異なります。しかし、ドイツを抑えるにはフランスは弱すぎます。
そもそもEUとその前身であるECとの間に大きな性格変化があります。
ECは主権国家の連合体であり、その中で経済協力を進めるという前提がありました。独仏両国は二度の世界大戦を経験し、二度と互いに戦争を繰り返さないことを誓うことで新しい時代に対処しました。そして、政治的にはフランスが、経済的にはドイツがECを支えると言う役割分担でうまくやってきました。
ところが、冷戦終結後にECがEUへ発展する際、ボーダレス化を推進するという発想になってしまった。言い換えれば、白人やキリスト教を軸とした共同体を放棄するイデオロギーです。統一ヨーロッパを訴えたクーデンホーフ・カレルギー伯の理想はまったく失われてしまいました。
しかし、ボーダレス化が進行し、かつ、難民が流入してくると、このイデオロギーでは対応できなくなってしまったわけです。現在、独仏両国を覆っているのは左派ファシズム・左派全体主義であり、少しでも現状と違うことを主張すればパージされます。今回のフランス大統領選挙で国民戦線はだいぶ善戦したと言えますが、やはり3分の1の壁を超えることはできなかった。
今日における欧米諸国の課題はこうしたボーダレス化やグローバリズムにどう向き合うか、ということです。
2017年9月1日発行藤井厳喜・宮崎正弘著『韓国は日米に見捨てられ、北朝鮮と中国はジリ貧』第4章 世界の大変貌 中国、EU、ロシア、そして極東ーP154