社長の仕事術 2016/08/03

岩田松雄氏:ミッションの重要性 Part3


ロイス:
今日まだおっしゃっていないことで、他に伝えたいことはありますか?
アドバイスなど頂けたら嬉しいです。

岩田:
そうですね、これを見てる方は日本人だと思います。
僕は本当に日本って素晴らしい国だと思うのです。
素晴らしい歴史もあり、きれいな自然もある。

それから何よりも日本人は素晴らしいと思う。
日本人はもっと自分たちのプライドを持つべきです。
僕は右翼ではありませんが
日本の素晴らしさを日本人自身がもっと実感して
もっと良い国にしようという気持ちを持ってもらいたいと思います。

そのために自分の国、自分の仲間、日本人を愛すること。
ナショナリズムではありませんが、それが基本です。

話が脱線してしまいますが
今日本では、「グローバル人材」という言葉が流行っています。
そもそも「グローバル」の定義を答えられる人はいないと思います。
ソニーの盛田さんが言っておられましたが
『良いグローバル人材というのは良い日本人である』
ということです。

世界に出て、いろいろな国の人と対等に話ができるように
英語が話せるとか、その国のことを知っているかということよりも
まず日本人として日本語をしっかり話し
日本と日本人の歴史を知り
それを語れる日本人が外国の方から見ても
尊敬される日本人であると思います。
英語を話せるから尊敬されるわけではないのです。

英語教育を小学生からやるより
もっとしっかり日本語を学ぶ、日本の歴史を学ぶ。
まず日本人であること。 
その上で海外に行くことが
尊敬されるグローバル人材になることだと思います。

今の政府の対応を見ていると、少し間違っている。
流行にこそ乗っているとは思いますが
まず日本人は日本人としてのアイデンティティを持つこと。
これこそが、良きグローバル人材
国際人になるための大前提だと思います。

ロイス:
素晴らしいです。今思いついたのですが、
国のミッション・ステートメントはいかがでしょうか?

岩田:
国のミッションステートメントという意味ですね。
日本を大切にするという話をした一方で
世界には所謂境界というものがなくなってきている。 
インターネットがあり、ヒト、モノ、カネが自由に動いている。

日本人は、地球の中の日本というスタンスをしっかり持つこと。
日本だけ良ければ他はどうでも良いというのではありません。
そのように考えてしまっても
短期的にはうまくいくかもしれません。
しかし100年、200年先のことを考えた時
地球の中の1つのパート
地球人であるという意識を持たないと
恐らく長続きしないでしょう。
そういう意味で国際化するというのは大切なことです。

日本は島国で、かつて鎖国もしていました。
言葉のハンデもあり
世界から尊敬されていなかったかもしれません。
しかし、僕はもっと日本の良い部分をPRして
外国の方に学んでもらいたい。
その中で我々も外から学ぶ。
お互いに学び合うことを世界に発信していけば良いと思います。

富士山、芸者、すき焼きだけじゃない。
日本にはもっと良い物があるわけだから
それを理解してもらうためにPRしていくのが
日本のミッションだと思います。

ロイス:
新規事業を始める際、やるべきことについては話しましたが、
やってはいけないことは何でしょうか?

岩田:
以前小川さんにもお伝えしましたし
他の様々なベンチャー企業の社長さんにも言いますが
会社が小さいとなかなか良い人は採れません。
当たり前ですが。

会社の成長が始まって最初に人が足りなくなった時
いかに我慢できるかということ。
つまり、変な人を採らないということ。
人手が足りなくてとりあえず人を採るというのはいけない。

機械のマイナスはゼロです。
機械は潰れたら終わり。
でも人のマイナスは無限大。
マイナスは想像以上に大きくなってしまうから
人の採用に関しては我慢する。
まあいいやと妥協してはいけない。

良い人が見つからなければ、我慢するかアウトソーシングする。
変な人を採ったために、後々とても困ることになったり
会社が分裂してしまったりする。
『ビジョナリー・カンパニー』で言うところの
「バスに誰を乗せるか」ということに関しては
規律を持たないといけません。
我慢して良い人が現れるまで採用しない。
このことは非常に大切です。

ロイス:
では最後に質問させてください。
今までの人生において、最高のことはなんでしたか?
また、どんなことをすべきでないか、アドバイスを頂けますか?

岩田:
個人、経営者、あるいは家族の長として、またはファーザーとして
経営者として一番嬉しかったことは2つあります。

1つはやはり、業績を上げてみんなにボーナスを払う時。
それはこちらもにこにこしてるし、相手もみんなにこにこしている。
つまりみんなでハッピーなわけです。
業績が良いということですよね。

もう1つの社長としての喜びというのは、人が成長する姿を見た時。
新入社員時代には学生、子どものようだった人が
1〜2年でボディショップのミッションを語ってくれたり
商品説明をしてくれたり、お店で頑張ってくれるわけです。
そういう人の成長を見た時、自分は経営者としてとても嬉しかった。

この2つが経営者としての喜びです。
あとは個人的にゴルフでバーディーが取れた時でしょうね。

ロイス:
いいですね。
学習方法について質問です。
学習し、記憶し、実践するために、何が必要でしょうか?
例えば、冒頭で話に出た小川社長のように、
本を読んで学んだものを実行に移すために、
どのようなプロセスが必要でしょうか。
例えば、岩田さんの本を読んだ人が実践するためには
何が必要だと思いますか?

岩田:
元の話に戻ると、僕たちはミッションや
何らかの人生の目的を持たなくてはいけません。

例えば僕が英語学習の本を書いたとします。
まぁ、御存知の通り僕はあまり英語がうまくないのだけれど。
今英会話をやる人が多くて、英語教育にたくさんのお金を使っている。
でも、何のために英語を勉強するのかという
ミッションがクリアではないから途中でダメになってしまう。

僕の場合はビジネス・スクールで経営の勉強をしたい
という目的、ゴールがありました。
そのためにTOEFLを勉強する必要がありました。
だから本当に一生懸命勉強したのです。
そう、目標がクリアになっていましたから。

ただなんとなく経営の勉強をしているような読者の方から
質問が来たりすることもあります。
自分自身が何をしたいかというゴールやミッションを
クリアしない限り、漫然と経営の勉強をしたり
英語の勉強をしても頭には入らない。

我々にも経験があるように、試験前は一生懸命勉強します。
試験に落ちないという目的がはっきりしているから
勉強できるのです。
そのような試験が無い時には、みんな勉強しませんよね。

それと同じで、目的がクリアになっていない限り
ファイナンスを勉強しても何を勉強しても
僕はダメだと思います。

ロイス:
素晴らしい答えだと思います。
「なぜこれをしているのか」という問いに答えること。

他に質問のある方はいらっしゃいますか?


質問者A:
ミッションがない会社、あっても額に飾ってあるだけの会社は
どのような病気の症状がでるのでしょうか?

岩田:
ミッションを書くことが大事なのではなくて、
実践することが大事。作って終わりではないんです。

最近、あるコンサル会社にミッションを作らせて
ミッションブックを作ってデリバリーさせたという話を聞きました。
これでは全く意味が無い。
そういったことは、サラリーマン企業に多いのだと思います。
要するにサラリーマンとして偉くなっていくには
ミッションよりも数字を上げることが大切だということでしょう。

そのような人が社長になると
目先の売上や利益といった目に見えるものばかりを
大切に考えてしまう。
むしろオーナー系の人の方が
しっかりミッションを持っていることが多いので
そういった不祥事は起きません。
とは言え、経営者が暴走することもあるけれど。

エクセレントカンパニーと言われる大企業といえど
ミッションや自分たちの存在理由を忘れてしまうと
最近の自動車会社や電機メーカーのように
あっという間にこうなってしまいます。

必要だから、作るものは作る。
本当に繰り返し、繰り返し。
トップと会社全体がみんなに発信し続けなければ
あっという間にそうなります。
そうなるのは本当に簡単なのです。

しかしミッションを築き上げ、定着させるには
10年、20年かかります。
スターバックスも20年、30年かかって今に至るわけです。
でも壊れる時は本当にあっという間なのです。

戦略を立てたり、利益を出すことも大切ですが
経営者にとって大切なことは後継者選びだとも言われます。
僕は最初はあまりピンときませんでした。
でも、いくらミッションを大切にしたと思っても
それを大切にしない人を後継者として選んでしまうと
会社にはあっという間にガタがきます。

経営者は最も影響力が大きいから
次に誰を社長にするかというのは本当に大切です。

ただ数字を上げれば良いと考える人や
能力の高さだけで社長を選んでしまうと
会社はあっという間に潰れてしまう。

後継者を選ぶ時には
能力が高くなければいけないけれど
それと同じくらい人柄が大切です。
しっかりと「to be good」の人柄を持った人を
社長に選ばないと、いくらミッションがあっても
あっという間に崩れてしまうでしょう。

大企業はもちろん、中小企業でもその理念がないと
みんなの見ている方向が違ってきます。
それらを1つにまとめることが必要なのです。
創業者が生きている間は良いけれども
明文化したものがなければ
創業者が死んだ瞬間にあっという間に崩れてしまう。
また、明文化されていても経営者が変わった途端
それがガタガタと崩れていってしまうというのも
もう何社も見てきました。

だからやはりミッションが大切。
ミッションは作るべきです。
作って終わりではなく、それをいかに継続させるか。
作るより継続し、守っていくこと。
そしてそれをDNAとして伝えていくこと。
それが経営者の仕事の中で最も難しいことかもしれません。
そのように思います。

ロイス:
岩田さんはミッションを様々な形で使って
経営していらっしゃることに感銘を受けました。
なぜそれほどまでにミッションの力を信じているのですか?

岩田:
なぜかというと…
僕は経営者として、アトラス、ボディショップ、スターバックス、
色々な会社を経験してきました。
特にボディショップ、スターバックスは
そのようにクリアなミッションを持った会社です。
そこでの経験を通して、なぜここの社員たちは
こんなに一生懸命働いてくれるのだろうと思いました。
特にスターバックスはみんなアルバイトなのに。
それは、ミッションという共通のゴールがあるからこそ
みんな生き生きと働いていけるわけです。

例えば歴史書を読んでいて、明治維新というのがあります。
アメリカの方に言うのもちょっとあれですが
植民地にされるのではないかと思い
日本の武士はみんな危機感を持ったのです。
だから自分の命を懸けて日本を守ろうとしたわけです。
それはまさしく大義。
ミッションがあったからなのです。

人々はミッション、大義があると命まで差し出せる。
そういった偉大な力があるのです。
だとすると、僕はミッションという言葉の定義を
もっと広い意味で使っているのかもしれません。
でもその呼び方は何でも良いのです。
フィロソフィーでもコアバリューでも。
でもその根本である、
「何のために自分たちは存在するか」
というものがあって、
組織でも個人でも良い人生を送れたり、
良い会社になるんだろうと思います。
僕はそれをつくづく実感しているんです。

ロイス:
ミッションについて、ここまで情熱を持って語る人は
私は岩田さんの他には、コヴィー博士しか知りません。
ミッションは私自身の助けにもなってくれていますよ。

岩田:
ただ、インタンジブルミッションもあるわけです。
つまり、別に紙に書いてないけども、
経営者の存在そのもの…
例えばアニータ・ロディックっていう存在そのものが
ボディショップなんですね。
それはインタンジブルなミッションなんです。
彼女の生き方そのものなのです。

ロイス:
書きだされていなくても、存在することがあるわけですね。
そして生きたものである。わかります。

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