マネジメント 2016/10/14

シャネルは最高の時計屋でもある。化粧品屋でもある。ファッション・宝石屋でもある。


リシャール・コラス
シャネルには3つビジネスあります。
ファッション、化粧品、時計&ジュエリー。
これらはそれぞれ三脚の脚と言えるでしょう。

さて、ここからはビジネスの進め方に関して
シャネルがどのように変化してきたかをお話します。

以前シャネルでは、サイロ型システムを用いていました。
化粧品は、ファッション、時計&ジュエリーは
それぞれ独立していて、交わることはありませんでした。
シャネルという1つの傘の下にあったけれども
ファッションはこっち、化粧品はこっち
時計はこっちという感じで完全に分断されていて
お互いに話をすることもありませんでした。

そんな時、私はこんな提案をしたのです。

「世界は急速に変化しているから
このようなことを続けてはいけない。
まずコミュニケーションを取るため
お互いに話さないといけない。
行動を変えないといけない」と。

メンタリティーや習慣やカルチャーを変えるというのは
非常に難しいことです。
過去にはそれ自体が社風であり
成功していたわけですから。

シャネルのオーナーは言いました。
化粧品で強く、ファッションで強く
そして時計&ジュエリーでも強く。

ファッションブランドが時計やジュエリーもやっている
という認識ではなく、
素晴らしい宝石屋として、時計屋として知られたいと。

垂直的統合です。
最初にインハウスで創造し、コミュニケーションもする。
もちろん製品開発もインハウスで行い、自分たちで売る。
消費者に対して直接販売する。
このように垂直的に生み出していくやり方は非常に強いです。
しかし強いからこそ同時に
それぞれがサイロ型になってしまうのです。

しかし時代は変わりました。
1人の消費者がバングルも時計も化粧品も買ったりするわけです。
彼女達にとって、シャネルはただ1つなのです。
3つのシャネルではありません。

私たちは若い世代、そして年配世代に対しても
これを理解させないといけない。
私たちは1つの統括的なブランドなんだと。
そのためにサイロから飛び出さないといけない。
このように言いました。
サイロの中にいると考え方が狭くなりますよね。


ロイス:
では、具体的にどのように行われたのでしょうか。
どのようなステップでやったのですか?


リシャール・コラス:
ある程度痛みを伴うリーダーシップトレーニングを
シャネルの上層部から取り入れました。
これは日本だけの話ではありません。
世界中のシャネルがそのように組織されていたので、
サイロを上から崩さないといけない
ということになりました。

今までは15人の社員が一緒に座っていても、

「あなたのビジネスはあなたのビジネス、
私のビジネスは私のビジネス。だから私たちは
お互いに交わるつもりはありません」
という感じで、話もしなかった。

まずはお互いに議論して学び合うことから始めないといけない。
「こうしたらいいんじゃない」と話し合ってね。
そうしないと、うまくいかないですよね。

だから、講義やセミナーをやったりしていたのですが
私はこう言ったんです。

「日本ではもうこれはいいから
次は実際の行動に移しましょう」と。

リーダーシップについて話し合うのは素晴らしい。
今どこにいて、これからどこに向かうか
話し合うのも素晴らしい。
しかしそれよりもそろそろ結果が見たい、と言いました。

そこで私たちはオフサイトミーティングを行いました。
6〜7つのアイデアのうち
どれを日本で採用するか議論しました。
実際にどれを行動に移すか聞いて回りました。
一番重要なのは、サイロから出て、
より大局的な見方をすること。
これはもちろん個人でも、組織レベルでもです。

様々なシンプルなアイデアが出てきました。
こうしたら、ああしたら、と。
そこで、「言った人がやる」ということにしました。

タスクフォースを作り、様々な部門から人を呼びました。
IT、ファイナンス、HRやGM、
リーガルの部署からも呼びました。
今までは、全く話もしなかった人たちの
グループを作りました。

話をしなかったとは言っても
当然何か問題があれば
リーガルのところに行ったりはしていましたよ。
ファイナンス等にも。
でも以前は、共通の目標がありませんでした。
だから今回はそれをやることにしたのです。

少々複雑なところもありましたし
シンプルなこともありました。
2カ月でできたこともあれば
1年かかったこともあります。
それぞれのタスクフォースが
チームにも私に対して責任を持ち
成果を生み出していくという決まりにしました。

ロイス:
具体的な目標は立てましたか?


リシャール・コラス:
はい、具体的な行動にしました。
究極の目標は、新しい考え方を作ること。

「私たちは共有でき、お互いに助け合うことができる。
毎日の仕事も含めて、お互いをより高め合える」

という考え方です。
私が最初に考えていたよりも断然早く実現できました。


日本には「のれん」がありますよね。
朝掛けて夜には下ろす、あの「のれん」です。
これはお隣で何が起こっていても、関係ないということ。
日本という国は保守的に見えるかもしれません。
しかし建前では、みんなが手を取り合い
調和が大切と言いながら
俺は俺のしたいことをやる。
だからお前も勝手にやれという考えが根底にはあります。

日本は皆が思ってるよりも個人主義なのだと思いますよ。
だから難しいかな、と思いましたが
実際はみんな一緒に働くことが好きだったのです。
一緒に何かをやるのをとても楽しんでくれるのです。

これはあるチームの話です。
オフサイトミーティングの後、
1つのチームが私のところに来てこう言いました。

「私たちは、外のことを十分に見ていないのではないでしょうか。
私たちは自分のビジネスや業界のことばかり見てるけれども、
新しいことを聞く機会がないから、
様々な外の業界の人を招いて話を聞く機会が沢山ほしい。」

「いいね、じゃあやろう」ということになり
お招きする方の名前を皆で挙げていきました。
「最初の講義は来週。素晴らしい女性をお迎えします」
このような感じで。

最初に来ていただいたのは、2番目に宇宙に行った女性でした。
彼女は45歳と若く、2人の子どもの母親です。
とてもインスピレーションのある女性でした。
シャネルのスタッフの96%が女性です。
このタスクフォースが一緒に働いて、何かを一緒に達成している。
このような感覚になったので、皆より広い視点が持てることになりました。
女性社員もインスピレーションを得ることができたのです。

このタスクフォースは、彼女たち自身がやっていることを
ワクワクして楽しんでいました。

タスクフォースを作った時に、約束したことがあります。
「あなたたちがやりたいことを達成するためには予算が必要だ。
だからそのための予算はこちらで出す」
このように言ったんです。
これは重要だと思います。

予想よりずっと早く、新しいカルチャーが入ってきました。
フランスやアメリカからではなく、ここ日本で。
皆もっと情熱を持つようになりました。
同僚と話すようにもなったし、ビジネスについても話すようになりました。

そして同じことがマネージャーの間でも起こり始めたんです。
ファッションのマネージャーと化粧品のマネージャーが話すようになった。
以前だったらあり得なかったことです。
同じデパートにいても全く話さない。
それどころか、お互いに知りもしない間柄だったのですから。

でも言ったんです。
「顧客は同じなんだよ」と。
ファッションのお客さんも化粧品も買うかもしれない。
それなら一緒に何かできるかもしれない。
そして今、それらは実現しています。
私は「こうしなさい」と言ったわけじゃないんです。
日本人に「これをやってくれ」って言ったら
しっかりやってくれますが、機械的になってしまいます。
そうではなく、情熱と意思を持ってやってほしかった。
だから、やりたいことがあったらやれば良いし、
アイデアがあれば教えてほしいと伝えました。

また、アイデアインキュベーターというものを作りました。
新年の大きなパーティーで、アイデアボックスを発表したんです。
誰もがそこにアイデアを入れることができます。
アイデアが採用されたら、それを書いた人がその担当になり
予算を得ることができ、それを進める権限が得られます。

例えば、若いセールスの女性がデパートの化粧品コーナーを見て
「これは改善できるのではないか」と思ったとします。
彼女はそのアイデアをボックスに入れるわけです。
うまくいけば彼女にはそれを変える権限が与えられるわけです。

ITマネージャーのところに行き、必要な変更を依頼する権限も与えられます。
ファイナンスマネージャーのところへ行き
「ちょっとバウチャーをこういうふうにしてくれない」
と言う権限もある。
権限を得ることができ、それを可能にするのに必要な予算も与えられる。
アイデアが実行されて改善されたのであれば、褒章も得られます。

私はこれを始めた時、こう思いました。
「日本だったら、まあ20くらいのアイデアが集まれば良い方かな」

でも結果はいくつあったと思いますか?
これまでで500ですよ!
当然重複するアイデアもあります。
500のアイデア全てが素晴らしく
それぞれ異なるアイデアというわけではありません。
でも欲しいのは「すごいアイデア」ではないのです。
我々の目的はビジネスを改善・変化させることにあるのですから。


ロイス:
顧客はどう反応しましたか。


リシャール・コラス:
私たちはこの取り組みを顧客に伝えているわけではありません。
これは内部でやっていることですから。
しかし、私にとっての顧客はシャネルの社員です。
シャネルの社員は非常によく反応してくれています。
500人がアイデアを出してくれたということ。
アイデアが今日、突然生まれたわけではありません。
前からあったわけです。
ところが、何らかの理由で言わなかった。

「アイデアを挙げるだなんて、出すぎたことしたら駄目だわ」

「上司のところで止まっておしまいよ」

「ちょっとシャネルらしくないわ」

こう思っていたのかもしれない。

そこでパンドラの箱を開けてあげたわけです。
「あなたのアイデアには価値がある。聞かせてください」と。
そして非常にポジティブなスピリットが会社に生まれました。

では、集まったこれらのアイデアをどうするか。
社員は見てますよ。
ここでやめてしまったらそれはダメなのです。
コミットしなければいけないのです。
社員にコミットメントを求めた以上、
会社もしっかりとコミットしなければならない。

だからシャネルとして
「選んだアイデア」をしっかりと発表しました。
すぐ実行できるアイデア。
1〜2年かかるアイデア。
ITを変えたり、ビジネスのやり方を変えるのならば
少々時間がかかりますからね。

それぞれのアイデアに責任者を決めました。
そして周りの人たちは彼女を助けてあげてくださいと伝えました。
IT、在庫、マネジメント等、専門的サポートが
必要となるでしょうから、それらも含めてきちんと進める。
そのような全体像を見せたのです。

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