シェアしたくなるストーリーの価値
From:ダン・ケネディ
『おもてなしの天才』(ダイヤモンド社)という本の著者ダニー・マイヤーは、ニューヨークで「モダン」というレストランを経営しています。彼は本の中で「Enlightened Hospitality(相手がどう感じるかを考えたうえでもてなす)」という哲学を紹介しています。
「ダニーは、お客さまのために尽くし、お客様が思い出に残る食事をするためなら何でもやるという人たちを雇っている」と聞いていたインターネット・マッケターーでコピーライターのヤニク・シルバーは、あるとき、この高級レストラン「モダン」に、同僚と一緒に食事に行く機会を得ました。
彼らはフルコースを注文し、サービスも食事も申し分のないすばらしいものだったと言います。しかし、本当の「Enlightened Hospitality」は、食事を4分の3ほど終えたときに始まりました。
彼らの後ろテーブルには、お互いに対して不満を抱えていることが傍目にもわかるような50代の夫婦らしき二人が食事をしていました。
信じられないことに、男性が女性に向かって、「なぜキミの両親は感謝祭のディナーに来て、猥談だけして帰ったのか」などと大声で叫んでいたと言います。
時間が経つにつれ、この夫婦の会話の声はますます大きくなり、すぐ後ろのテーブルにいたヤニクと同僚はお互いの声が聞こえないほどだったそうです。
その後、ヤニクがトイレに立ち、戻ってくると、もとのテーブルには何もなくなっていて、見回すと、遠くの方で同僚が手を振っていました。
ヤニクが同僚に「どうしたのか」と聞くと、説明してくれました。
ヤニクがトイレに立った直後、ソムリエ兼ウェイターのニックがやってきて、やり過ぎではないかと思うほど大げさに、テーブルの上にボトルの水をこぼし、その後、その夫婦に聞こえるように大きな声でこう言いました。
「おおっと、手が滑ってしまいました。テーブルに水をこぼしてしまうなんて、自分でも信じられません。こんなに濡れたテーブルでお食事をしていただくわけにはいきません。他のテーブルに移りましょう」
7人のスタッフがやってきて、6個のワイングラスと食事を部屋の反対側のテーブルに移動してくれたのだそうです。
店の様子を見て、「うんざりしているだろうな」と適切な判断をしたスタッフが、夫婦が恥ずかしい思いをしないように気を遣いつつ、本当に気の利くことをやってくれたのです。
さて、この話を聞いて、あなたはどう思ったでしょうか。すばらしい話なので、誰からに話したくなりませんでしたか。ヤニクは、この出来事を数え切れないほどの人に話し、ダニー本人にも話したそうです。
ダニーは、この話を次のスタッフミーティングで使うと言っていたそうです。おそらく、ヤニクやダニーからこの話を聞いた人たちも、同じように誰かに話しているに違いありません。
これは、非常にパワフルなマーケティングのコンセプトです。つまり、みんなでシェアしたくなる話をすると、その話は勝手に広まっていってくれるということです。
いい話は「この経験を他の人に教えなくてはいけない」と半ば強制されたような気持ちにしてくれます。人がシェアしたくなるような話をすれば、自然と口コミで広まっていってくれるということなのです。
ダン・ケネディ
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