経営者の反対語は?
From:寺本隆裕
「経営者」の反対語は何だと思いますか?
物事の本質を見極めたり、クリエイティブなアイディアを出すときに、その「逆」その「反対」を考えてみるのはとても有効なことです。チームでディスカッションするときにも、僕はたびたび、「逆に言うと…?」というような表現を使ってファシリテーションすることがあります。
じゃぁ、経営者の反対語は何でしょうか?
雇う側と雇われる側だから…「従業員?」。それもあるかもしれませんが、経営者が「組織で仕事をする人」だと捉えると、従業員は反対語とは言えません。
では何か。
経営者の反対語は…
実は、「起業家」「個人事業主」なんです。一部例外はあるとして、経営者と起業家、経営者と個人事業主は真逆の存在なのです。
1.経営者 vs 個人事業主。
経営者は個人事業主の延長ではありません。経営者は組織を動かして成果を出す人ですが、個人事業主は自分ひとりあるいはアシスタント的な人を雇って自分が中心となって働く人のことです。
経営者は「組織」を作り、社会に大きなインパクトを与えるためにリスクを取る人、とも言えるでしょう。自分個人の自由ややりたい事を優先するのではなく、、、自分が(社会的に)やるべきことを優先します。この両者では、学ぶべきことも、優先すべき事項も、意思決定するための軸も、全然違います。
たとえば個人事業主の場合の観点は、自分が働いて、自分が顧客や市場に価値を生み出す、そのためにどうするか?そのためにアシスタントやスタッフをどのように働かせるか?という事を考えます。
一方、経営者は、顧客や市場に価値を生み出す活動に、いかに「間接的に」関わるか?という事を考えます。価値を生み出す現場から遠ざかれば遠ざかるほど、間接度合いが大きくなればなるほど、その生み出す価値の総和が大きくなります。
「自分が主人公として成果を出す」のか、「社員や組織が主人公として成果を出す」のか、の違いですね。
個人事業主は自分がヒーローとして仕事をするために、周りの人の協力を得ます。経営者にとっては社員が価値を生み出す中心であり、社員を舞台に上げてヒーローにすることが仕事です。
個人事業主が学ぶべきことは、自分が成果を出すための方法論、ノウハウです。経営者が学ぶべきことは、社員に成果を出させるための方法論、ノウハウです。社員に、成果を出すための方法論、ノウハウを学ばせます。
個人事業主が接するのは主に顧客ですが、経営者が接するのは主に社員です。
経営者になるためには、経営者は個人事業主の延長ではなく、むしろ真逆と考えるとわかりやすいでしょう。自分一人で立ち上げた事業を大きくしたり組織化したりできないのは、これまで個人事業主としてやってきた仕事の延長線上に、経営者としての姿がある、という勘違いが邪魔をしているケースが多いのです。
当然のことながら、うまく生徒を教えるのと、うまく学習塾を経営するのは別のスキル。うまく釘を打つのと、うまく建設会社を経営するのは別のスキル。ですからね。
次に、、、
2.経営者 vs 起業家
起業家は新しい事業をどんどん立ち上げていくものです。ゼロ→1を作るのが仕事ですね。新しいもの好き、派手、ってな感じでしょうか。
一方経営者はそれとは違います。どっちかというと、地味です(笑)
もちろん会社の経営に新規事業の立ち上げが必要なケースは多々ありますが、経営者は、新規事業は失敗の確率のほうが高いことをよく理解しています。
そのため、事業のポートフォリオのバランスを重視します。この事業はまだ伸びしろがある、このように伸ばそう。こっちの事業は総合的に割に合わない。撤退しよう。人材はこのように配置しよう。そうやって社内のリソースを適切に配分していくのが経営者の仕事です。
新しい儲け話には、経営者は「NO」と言うことの方が多いです。というか、社員が持ってきた本体とは違う思いつきのアイディアや、毎日のようにお誘いがかかる儲け話を、冷静に複数の観点で慎重に意思決定するのが仕事です。逆に言うと、自信を持って「NO」と言うための、強い「YES」を追求するのが仕事です。
これを読んでいるあなたは、個人事業主や起業家として優秀で、成功されてきた人でしょう。が、経営者として組織を作り、大きくしていくためには、今日まで大事にしてきた価値観、これまでうまく行ってきたやり方、学んできたもの、を、全部捨てることが必要になるかもしれません。
経営者は、個人事業主の延長でもなければ、起業家でもないからです。
「あなたをここまで連れてきたものが、あなたをあそこまで連れて行くことはない」
マネジメントの格言です。
寺本隆裕
PS
ここからはマニア向け情報(笑)
そういう意味で(ぶっちゃけますと)ダン・ケネディのアドバイスは、経営者になるというコミットメントをするなら、一部捨てる必要があります。なぜならダン・ケネディは「起業家」だからです。
まだ個人として、起業家として、能力の低い人、創業期、キャリアのスタート時期であれば、彼の教えに100%従うべきかもしれません。彼の哲学やアドバイスは超有効です。
ですが、個人として稼ぐ能力を身に付け、その後、経営者になろうとしたとき、彼の教えが邪魔をすることがあります。
事実、ダン・ケネディはマネジメントをGKICというパートナーの会社にアウトソーシングしています。そこから彼の成功はまた大きくなっています。偉大な起業家は、偉大な経営者の用意した舞台で、またさらに偉大になったわけです。