日本の石油ルートの運命を握る中国海軍の圧力
現在、日本は年間約2億バレルの石油を輸入しており、その一日あたりの石油消費量は、アメリカ、中国に次いで第3位(約445万バレル)となっている。
つまり、30万トンクラスのタンカーの積載量が200から220万バレルと換算すると、日本は毎日、タンカー約2ないし2.5隻分の原油を消費している計算になり、今後もこの供給量は維持されていなければならない。
特に福島での原発事故の後は、天然ガス等の需要が一気に急増しているから、これらの数値も増加している。
ペルシャ湾から日本周辺までは約1万2000キロも離れており、石油タンカーの航海日数は往復で約50日とされている。
中東から日本への石油ルートには主に、インド洋からシンガポール沖を抜け、南シナ海を目指す「マラッカ・シンガポール海峡ルート」と、インド洋からインドネシア、フィリピン南部を抜けて行く「ロンボク・マカッサル海峡ルート」の二つがあるが、これらの地域はいずれも日本の経済的安定と存立に欠くことのできない、戦略的に重要なチョークポイント(隘路)である。
東アジアの経済成長に伴い、海上輸送量が増加するにつれて、チョークポイントに関する安全保障問題はさらに重要性を高めてくるだろう。
特に、前者の「マラッカ海峡ルート」は、中東やアフリカ、欧州から各種資源や物資を運ぶ日本商船隊の主要な航路であるが、14億人もの国民を食べさせなければならない中国にとっても海上輸送の戦略的要衝であり、エネルギー資源の潜在性からも、その権益を絶対に確保しておきたい場所である。
つまりこの海峡は、日本のみならず、中国にとっても極めて重要なチョークポイントなのだ。
水深は極めて不規則で、わずか20メートル以下の浅瀬もあり、航路幅は最狭部で600メートルと極めて狭く、また雨期には視界を遮るほどの豪雨に見舞われるという地理的特性が重なり、そんなところを毎日数百隻もの船舶がひしめき合いながら航行しているため、オイル・ロードの難所となり、海難事故を含めた多くのリスクが存在している。
のみならず、同海峡を年間に通過する船舶は劇的に増加し続けており、21世紀初頭には年間9万隻強であったが、2020年には50パーセント増の14万隻以上に達するだろうとする専門家もいる。
また、14世紀から同海峡周辺に跋扈し、貧しい地元民らの伝統的な生業とされ続けてきた海賊の存在も懸念されている。
「世界で最も危険な海峡の一つ」と言われるゆえんである。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章、いま、南太平洋で何が起こっているのか pp. 26-28