経済 2018/04/24

日本の石油ルートの運命を握る中国海軍の圧力②




2015年には石油の対外依存度が70パーセントを超え、アメリカを抜いて世界最大の石油輸入国になるだろうと言われている中国にとっては、最近のサウジアラビアやイラク、アンゴラなどからの石油輸入を増加させていることもあり、このマラッカ海峡は死活的に重要だ。


彼らは、この海峡をアメリカ海軍に封鎖されれば大変なことになると考えており、胡錦濤前国家主席はこの状態を「マラッカ・ジレンマ」と呼んだ。


実際、すでに中国はこの海峡を支配下に置き、アフリカや中東からの物資の安定供給を図るため、中国人民解放軍海軍(中国海軍)をして南シナ海における覇権を一気に拡大している。


南シナ海は、石油・天然ガスが豊富に埋蔵されており、その原油埋蔵量は約70億バレル(米エネルギー省)から最大で2130億バレル(中国政府)と見られていて、石油やガス田はすでに約1000もあるが、「自分たちのものは一つもない」と考えている中国は、それらを実力で獲りにいこうとしている。


この海域において中国は長年、周辺国との小規模な軍事的紛争を繰り返し、強引な手法による領土拡張意欲を明確にしてきた。


2007年11月には、中国政府は、中沙、南沙、西沙の諸島群すべてを含む南シナ海の大部分を、中国海南省の行政区「三沙市」に指定、周辺国に深刻な懸念を与えた。


この三沙市は、スプラトリー諸島(南沙諸島)のほか、パラセル諸島(西沙諸島)、中沙諸島にある260の島や珊瑚礁、干礁などで構成され、東西900キロ、南北1800キロ、総面積200万平方キロ(領海含む)に及ぶ広大な行政区域となる。


これは、中国の総陸地面積の約21パーセントに相当する。
これと同時に、中国海軍は海南島を根拠地とする核ミサイル搭載潜水艦の配備数を増やし、南シナ海におけるミサイル演習などを実施している。


2010年7月には、中国海軍の南海艦隊のみならず、東海艦隊、北海艦隊を含む三個艦隊が南沙諸島周辺で大規模合同軍事演習を実施し、11月には海軍陸戦隊が上陸演習を行った。


2011年になってもこの動きは止まらず、2月25日、南沙諸島のジャクソン環礁で中国海軍フリゲート『東莞』がフィリピン漁船三隻に威嚇射撃を行い、5月には中国艦船がイロコイ・パラワン島沖のイロコイ礁付近に杭とブイを設置、フィリピン外務省がこれに抗議し、中国大使館に詳細な説明を求めた。


また同年5月26日には、ベトナム沖(西沙諸島と南沙諸島の周辺海域)で、中国監視船三隻がベトナム国営石油会社の探査船『ビンミン〇二号』の活動を妨害し、調査用ケーブルを切断するという事態が発生、翌月9日にも同社がチャーターした探査船『バイキング二号』の調査用ケーブルを中国漁船が切断している。
これに対し、ベトナム海軍は同海域において実弾射撃演習を実施した。



平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp. 28-29




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