南太平洋の防衛こそ、日本の生きる道②
かつて、第二次世界大戦後の1948年6月、ソ連が西ベルリンに向かうすべての鉄道と道路を封鎖し、生活必需物資の供給が途絶えた200万人の西ベルリン市民が生命の危機に瀕したという事件があったが(ベルリン封鎖)、中国海軍が将来、日本のSLOCを圧迫して「マラッカ海峡」「ロンボク・マカッサル海峡」経由の二つの石油ルートを封鎖した場合、最後の土壇場で日本の存立を救うのは、南太平洋のど真ん中を抜けて日本を目指すこの「バス海峡・南太平洋ルート」しかないのである。
このルートは、まさに現代の「ベルリン空輪回廊」のようなものだ。
この点から見ても、「南太平洋」はまさに日本にとっての「生命線」と化しているのは明らかである。
したがってこの地域の防衛は、今後の日本の安全保障政策における「至上命題の一つ」とさえ言えるだろう。
そもそも、南太平洋は伝統的にオーストラリアの「シマ」であり、アメリカは、アジア・太平洋地域を見る時、フィリピンを中心にして物事を考えている。
しかし日本には、日本国外からその安全を見つめようという発想そのものがない。これは実に危険なことである。
日本は、南太平洋を支配しているオーストラリアを支援する形でこの海域の安全保障を考える必要があるのだ。
幸い、南シナ海と違い、この海域であれば、日本の海軍力はまだまだ活動可能である。
2015年以降、もし日本が南太平洋における安全保障体制の維持に「失敗」しれば、中国は南太平洋にまでその勢力を一気に拡大し、2020年以降には、アメリカによる太平洋とインド洋の独占的支配を阻止するという、「もう一つ上の段階」に移行していく。
この時、西南太平洋上における通行権をも完全に喪失する日本は、そんな強大な中国という「新たな皇帝」に対し、かつての朝貢制度よろしく「臣下の礼」をとり、その「恩賜」によって資源を分けていただく、という状態に陥るだろう。
だからこそ、今から南太平洋の防衛を日本は真剣に考えるべきなのだ。
こんな南太平洋地域には、いくつかの島嶼国群が点在している。
いずれも、人口が小さく、インフラもほとんど整備されていないようなところだ。
中でも日本にとって重要なのが、フィジーやパプアニューギニア、ソロモン諸島といったメラネシア系の国々であるが、これまでにこの国々を実質的に管理してきたのは、かつて宗主国としてこの地域を直接統治してきたオーストラリア(英国)である。
そのオーストラリアにとって、独立した後も伝統的な部族社会から抜け出せず、紛争やクーデターなどを繰り返してきた南太平洋諸国の不安定な政治状況は、常に外交上の頭痛の種であり続けてきたが、彼らは近年の中国の急激な進出に対しても、日本と同様に頭を悩ませている。
日本はこのあたりの事情をしっかりと把握し、オーストラリアと手を組むことで、お互いの弱点を補完し合うことを考えるべきであろう。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか pp. 39-41