経済 2018/05/01

「ロンボク・マカッサル海峡ルート」の安全を脅かす「ブルネイ」の行方




ブルネイは、1984年に英国から独立した国であり、人口わずか40万強、三重県とほぼ同じサイズのイスラム教国で、膨大な地下資源を埋蔵することでも知られている。


イギリスにとっては周辺における影響力を維持する上でも非常に重要な拠点であり、1962年に発生したブルネイによる独立運動を鎮圧し、フォークランド紛争でも戦った英陸軍ロイヤル・グルカ連隊のほか、最近香港から引き上げた退役グルカ兵2千名も配属されている。


英軍最強とされる彼らは、石油メジャーの油田権益を防衛するために展開しているのだ。
また英豪軍の特殊部隊もここを拠点とし、過去、隣国に対する様々な越境作戦に従事してきた。


この国の元首は、66歳になるハサナル・ボルキア国王(第29代スルターン)であり、首相と国防、財務に両大臣を兼務する絶対君主として君臨しており、国民からの支持も高い。


世界有数の大富豪でもあり、ベンツやフェラーリなど2千台もの高級車のほか、ボーイングなどの大型機を保有し、あの北京の紫禁城よりも巨大な世界最大の宮殿「イスタナ・ヌルル・イマム宮殿」(床面積20万平米)に住んでいる。


また、ブルネイ国民に納税の義務はなく、教育も無償であり、IMF統計による一人当たりの購買力平価換算GDPは、日本を上回る5万ドルに達している。


そのため、ブルネイは極めて豊かだというイメージが強いが、その経済基盤は脆弱であり、唯一の国家収入は、同国で莫大な利益を稼ぎ出している石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)とその系列企業からだけであり、年間予算は日本円でわずかに3900億円ほどしかない。


また、政府の方針も議会や国王が決めるのではなく、1929年にRDSが開いた名門「パナガ・ゴルフクラブ」における石油メジャーの役員会によってすべて決まると言われており、国名を石油会社のそれにした方が良いのではと揶揄されている。


つまり、政治の意思決定のプロセスも極めて不透明な国家であるブルネイは、実際は独立などしておらず、国王には何の政治的権限も与えられていないということが判るのである。




平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp. 32-33




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