経済大国ニッポンはどこへ向かうのか
1ドル=360円の時代
1945年(昭和20年)、大戦争に敗れ、アメリカに占領されて、日本の伝統文化およびその精神を根本的に破壊され、日本文化は悪いもの、日本の伝統は恥ずべきものとした戦後教育によって洗脳され、育てられてきた日本人は、すでに戦後50年たった今でさえも、アメリカに命令されるまま、黙々と服従をしている。
30年前のアメリカは全世界から崇められ、誰からも文句をつけられることのない輝かしい「ユートピア」であった。富もあった。犯罪も少なかった。街に醜い落書きもなかった。浮浪者(ストリート・ピープル)もいなかった。アメリカ全土が美しいと思われていた。
私がシアトル市にあるワシントン大学大学院に留学した1964年は、東京オリンピックの年である。東京・大阪間に、日本で最初の新幹線が国の総力を挙げてやっと走った時だ。道路は舗装されていないのがほとんどで、下水道も水洗トイレも全国に普及していない時だ。1ドルが360円。コーヒー1杯が30円、コカコーラ1本10円、ミルク1本11円、カレーライス40円、水割り1杯40円の時の360円だ。
日本の興隆とアメリカの没落
日本はとても貧しかった。日本全土に「カネ」がなかった。日銀はドルを持っていなかったのだ。それゆえ、留学をする時、日本から持ち出してよいドル額はわずか300ドル。
ところが、今はどうか。日銀に、日本全土に、いや世界中にドルがあふれかえっている。アメリカの造幣局が「カネ」もないのにドル札を印刷しまくっているからだ。それゆえ、1ドルが一時80円を切り、ドルはあたかも底がないかのように落ち続けている。アメリカは世界一の債務国に成り下がった。
1980年末、約4千億ドルという巨額の黒字を持つ大金持ちだったアメリカは、それを使い果たし、日本から多額の借金をしなければ生活が成り立たない国へと転落したのだ。
今やアメリカ国内の社会情勢は、「悲惨」という言葉が当てはまる。街は汚くなったし、若い世代の間に麻薬がはびこり、犯罪たるや目も当てられない現状である。無秩序が全米を襲うのではないかと思われるほどだ。
規制大国ニッポン
本来、円高は日本の力の象徴と見るべきなのだ。日本のように膨大な量を輸入する国は物価が下がり、国民の生活が豊かになるはずなのだが、マスコミも政府も、輸出産業への打撃や景気への悪影響ばかりを強調している。自国の通貨が強くなってオロオロしているのは日本だけだ。
日本は世界の経済大国である。世界各国もそう思っている。しかし、日本国内での生活は楽になっただろうか。
日本人の平均的給料は世界一。その高い給料で何が買えるかを比べてみると、日本は七位だ。世界一の黒字を持ち、金持ちと自信に満ちている日本だが、生活水準は低い。日本では物価がべらぼうに高い。日本政府・官僚が大好きな「規制」のためだ。
西鋭夫著『富国弱民ニッポン』
はじめに−3