CIAからの誘い(3)
CIAのモグラ
「東京に在る諸外国の大使館の職員に極秘を盗ませるのには、人の好みや弱みを掴み、永い月日を費やさねばならないのでしよう」
「10年、20年、30年かけて、内部に『モグラ』を育てるのだ。アメリカも、ソ連のために動き回っていた『モグラ』にFBIやCIAの国家機密が長期にわたり盗まれた。アメリカの友達イスラエルでさえ、アメリカの極秘を盗んだんだ。スパイ活動をしない国が賢くない、と思うよ」
「日本では、どんな人がモグラですか」
「それは言えない」
「私が今『CIAに入ります』と言うと、教えてくれるのでしよう」
「ウーン、教える」
「企業の大物や国会議員や著名なジャーナリストもアメリカのモグラですか」
「ウーン居ないこともない」
「国会議員で、何人いるのですか」
「ウーン、not less than ten(10人以上だ)」
私の表情が険しくなったのか、パームさんが「驚くほどの数ではない。よその国の議会なぞ半数の議員が私たちの協力者だ」と私を慰める。
「自民党、社会党、共産党の議員も、モグラになっているのですか」
「私たちはモグラのイデオ口ギーに興味がない。お金に、国境やイデオロギーの壁はない。カネのためならなんでもする人が多いよ」
産業スパイ
「産業スパイも養成されているのですか」と私が話題を替えた。
「アメリカと日本が技術で世界独占を競っている時、産業スパイは国家の戦略として当然の政策だ」
「日本の産業スパイは、アメリカでたびたびお縄をちょうだいしていますが、アメリカの産業スパイは日本で捕まりません」
パームさんが綺麗に並んだ白い歯を見せ、声を出さず大きく笑った。
「アメリカの産業スパイが日本で捕まらないのは、内部の日本人が機密を盗んで持ち出しているからだ。日本人がアメリカで逮捕されるのは、素人の自分たちで盗むからだ。日本人は基礎ができていない」
理想論、倫理観、希望的観測に縛られていない者が自国の国益のためには手段を選ばないという現実を見せつけられ、私は反論をすることもままならず圧倒された。本能と理性が戦った時、本能が勝つ。
金と女
「ところで、ドクター西は何に弱い」
「私は、長い間、奨学金で貧しい学生生活をしていましたので、お金が欲しい」
パームさんは胸の内ポケットから1枚のリストを取り出し、テーブルに広げ「連邦政府の給料表だ。ドクター西は博士号を持っていて、34歳なのでこのあたりだ」と真剣な顔を作って私の年俸額を指さした。
パームさんのハンサムな顔に一瞬私の弱みを捕らえたかのような喜びが走ったが、「カネが欲しい」と言ったのは本当かと私の顔を見つめている。
「ドクター西、女は好きか」
「大好きです」
「東京の一等地に、すばらしいオフィスを構え、美しい秘書を2人ほど座らせて、羽振りのいいビジネスマンになってはどうか。もちろん、運転手兼ボディーガード付きだ。ドクター西、何になりたい」
「大学教授になりたいと思っていますが」
「なぜそれを早く言わないのだ。すぐなれる。電話1本だ。日本人は教育が好きで、教授は社会的な地位が高いから、その方がドクター西も動きやすいかもしれないな」
西鋭夫著『日米魂力戦』
第4章「国の意識」の違い -34