富とお金 2018/07/13

未来のお金を守る




数年前、哲学の教授と昼食を共にしたとき、教えてもらったアイディアがある。それは私が自分の考えを明確にし、ビジネスの正しい決断をするために何度も利用してきたアイディアで、あなたにとっても役に立つはずだ。

私たちは21世紀型の学習アプローチに関するビジネスプロジェクトについて話し合っていたが、ドイツの哲学者で詩人のニーチェに話が及んだ。私はニーチェに関して初歩的な知識しかなかったが、彼が反宗教主義(今日で言う)であり、人間は自己肯定することで強くなると信じていたことは知っていた。第三帝国(来るべき理想の国家)に通じる考えのことだ。

教授はニーチェが古典文献学(彼の学術専攻)や芸術、古代文化、音楽など多くのことに関心を持っていたことを話してくれた。しかし、私がもっとも興味を惹かれたのは、彼の「情報」に関する発言だ。ニーチェは、21世紀に情報技術が出現し、判断の基準として、二次的な情報(研究や統計、新聞報道など)が経験に取って代わると予測した。

これは衝撃的で興味深い予測だ。これまで意識してこなかったが、確かにそのとおりだと言える。地球温暖化や国内政治など様々なトピックに関して私が持つ意見は、新聞やテレビから得た情報に基づいている。

それ以降、私は自分や他人の考えが何に基づいているか注意を払うようになった。そしてニーチェの考えが正しいとますます感じるようになったのだ。彼の予測はすでに現実になったと言えるだろう。

ニーチェは正しかった。そしてそのことを理解すると、危険とチャンスが見えてくる。

現在の思考法に関する問題点とそれを利用する方法


理論的知識(ニーチェが使うドイツ語ではヴィッセン)が重要視され、多くの人が自分の個人的経験より理論的知識に基づいて行動するようになった。

例を挙げよう。ほとんど知らないビジネスに投資すれば、損をすることは経験上分かっている。しかし、素晴らしい業績予想のビジネスプランや、それを裏付ける証明書や確かな推薦状があれば、人は投資すべきだと信じてしまう。欲望に取り憑かれると、直感の知識を忘れ、頭を曇らせる事実や数字を信じてしまうのだ。

政治家の言っていることを信じてはいけないと経験上分かっている。しかし、選挙の時期になるとそうした本能が抑えられ、演説の言い回しがもっとも「それらしい」候補者に投票してしまうものだ。

私たちは毎日膨大な事実と数字を扱い、それらの情報は私たちの経験を裏付けてくれる。インターネットのユーザーが1秒に10人の割合で増加したという統計から、インターネット産業が急成長していることを確認する。

しかし、ときに事実は経験と矛盾する。株式市場は活況で、経済はこれ以上良くならないと言われるほど好調でも、私の知る投資家の成績はまずまずだし、ビジネスで苦戦している人もたくさんいる。

二次情報が個人的経験と相反するとき、人は自分の経験を無視しがちだ。「私の知識が不完全で、私の経験が普通ではないのだ」と自分に言い聞かせてしまう。

経験から事実や数字(どうとでも「解釈」できる)を判断するのではなく、事実や数字により自分の経験を正当化しているからだ。

これは特筆すべきことだ。事実や数字は簡単に作り出せるし、事実を捻じ曲げる人がいることを誰もが知っている。しかし、人の不正と事実捏造の可能性を結びつけて考える人はほとんどいない。

過去の失敗を教訓に未来のお金を守る


多大な投資をしたプロジェクトが失敗するなど、ビジネスで間違った決断をする場合、経験より好ましい事実を重視していることが多い。

例を紹介しよう。私と当時のビジネスパートナーは、新米ママをターゲットにした雑誌を成功させようと1年費やした。需要があるという数字を見て大ヒットすると思い込んだのだ。2人とも業界での経験がなかったが、怯むことはなかった。その結果、プロジェクトを打ち切るまでに2500万円の赤字を出してしまったのだ。

もう一つ例を紹介する。私が知るダイレクトメールの編集者は、広告利益の分け前をもらう代わりにファイナンシャルサービス業者に顧客リストを提供した。彼は、「ほかの編集者」が得た収入の素晴らしい数字を見て、広告の掲載料金を免除したのだ。しかし、結果は提示された数字よりかなり少ないレスポンスしか得られなかった(編集者はほとんど収入を得られなかったが、広告主はたいしたお金を払わずに新しいリードを獲得した)。

今回のメッセージを書き始めたとき、ジレンマのようなものを感じている自分がいた。私はパートナーのほかに、インターネット革命に関する本をすべて読んでいるような若いインターネットのエキスパートたちと働いていた。彼らは読解力があり、快活で、本に書いてあることを信じている人たちだ。つまり、インターネットはまったく新しい産業で、旧式のルールは当てはまらないといったことだ。

大量のデータに基づいた彼らの理論はとても素晴らしく思えたが、私が経験してきたこととは相反していた。それでも彼らの話には説得力があり、これまで私が何十年も経験してきたことを投げ打ってしまいそうになった。結局、あれこれ少しずつ試してみることになったのだが、うまくいったのは少なくとも私の見解では、結局従来からうまくいっていたものだったのだ。新しい経済の理論上のルールや原則は、希望的観測であることが分かった。

賢い決断をするためにできること


理論的知識を無視しろとは言わない。経験だけで分からないことがたくさんあるし、個人的経験を活かせないところで決断を迫られることも多々ある。そういうときは、理論上の情報を検討、評価しなければならない。しかし、間違えれば致命的になってしまうような個人的、財政的に重要な決断は自分の直感を信じよう。

もし、あなたが複雑で重要な決断を下すのに困ったら、この方法を試してみるといい。

まず紙に垂直に線を引く。片側にその問題に関してあなたの経験から言える事柄を書き込む。もう片方に教えられた事実や数字を書き込む。それからページを半分に切り裂き(垂直に)、二次情報のほうをゴミ箱に捨てる。そうすれば正しい決断をするのに必要な情報がすべて揃っているはずだ。

チャンスを逃したくない?おそらくそう思う人もいるだろう。しかし、判断材料となる経験がないまま成功するには、その前に何百回も失敗することになると、私の経験が言っている。

マーク・M・フォード

                                                Presented by インベストメントカレッジ

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