岩田松雄氏:ミッションの重要性 Part2
ロイス:
皆誰もが、なぜこの世にいるのか、という
自分の物語を持っているはずです。
「なぜ」と問うことで、意義を見出すヒントになると思うんです。
私達がどこから来て、今どこにいて、これから先どこに向かうのか
ミッションがあれば、それらが繋がるはずなんです。
「なぜ自分は今ここにいるのか」と問うた時に、ミッションが答えになり
インスピレーションの源にもなると思うんです。
ミッション・ステートメント以外にも必要なものはありますか?
それとも、それだけで充分でしょうか?
岩田:
ミッションはもちろん最も大切だとは思いますが
それだけでは非常に難しい。
スキルであったり、ミッションを実現するための
手段を持ってないといけません。
例えば、企業にとって、利益が「ゴーイング・コンサーン」のために
必要なように、個人にとっても自分のミッションを達成するためには
なんらかの経済的収入がないと継続ができない。
企業と個人は同じだと思います。
僕が本に書いたのは、「好き」で「得意」で「人のためになる」こと。
この3つが重なるところを自分のミッションにしたら良いでしょう。
好きで得意は分かりやすいと思いますが
人のためになることはどうでしょう。
人のために何かすることによって、対価としてお金を頂きます。
例えば僕のミッションはリーダーシップ教育、経営者教育です。
今本を書いていて、今日もこれからビジネススクールで教えますが、
その対価として僕はお金を頂いています。
つまり継続ができるわけです。
だから単に好きで得意なだけではいけないわけです。
例えば僕は野球が好きですが、野球では誰も僕にお金をくれません。
それはあくまで僕の趣味ということです。
でも今の自分はこれまでの経験を伝えたり、本を書くことによって
その対価として僕はお金を頂いて継続ができるわけです。
つまり好きで得意で人のためになること。
これをヒントに自分のミッションを考えたらどうですかということを
本で書いたり、講演にしています。
そうしないと継続できません。
ロイス:
素晴らしいです。
それらのことを加えると良い、というアドバイスですね。
再度、岩田さんの話に戻りましょう。
今まで大変成功してきていらっしゃいますが、
将来・未来においては何がしたいですか?
現時点で僕自身のミッションは人を育てること。
小川さんのような立派な経営者、若手の経営者を育てることです。
次世代のリーダーをつくることを自分のミッションにしています。
僕は若い頃、社長になりたいという夢を持っていました。
今はそのような、10年後、20年後のことは考えていなくて
目の前にあることに全力投球しています。
僕の経験上、一生懸命やっていると次のゲートが開きます。
スティーブ・ジョブズも言ってるように「Connecting dots」の考え方です。
振り返ってみると全てつながっているけれども
その時点ではベストを尽くしていただけなのです。
結果的には全て、原因と結果の繰り返しなのです。
再び地震が来て、僕は明日死んでしまうかもしれない。
だから僕ができることは、「今できることのベストを尽くす」ことなのです。
別の会社で再度社長をして欲しいという話があれば
僕は受けるかもしれません。
でもその話がなければまた一生懸命本を書きます。
そういうことです。
あまり先のことは考えていません。
ベンチャー企業や小さな会社をゼロから始める時
僕が最も大切だと思うのは、ファウンダーの強い思いです。
パッションだとかミッション。
それこそが大切なのです。
先ほどの例のように
自分のお姉さんのがんを治したいでもいいし
最初はお金儲けを目的にしても良いと思います。
大きな家に住みたいとか、それでも良いのです。
何より経営者の強い気持ちが必要です。
なぜなら、ベンチャービジネスはほとんどの場合うまくいきません。
いろいろな困難にぶつかります。
でも、強い思いがなければそれらを乗り越えることはできません。
実は、スターバックスを辞めた後
僕は産業革新機構という所謂政府系のファンドにいました。
官僚の人や金融の人はお金とアイデアがあれば
ビジネスが成り立つと思っています。
彼らは何も分かっていません。
だから多くの無駄な投資をしているわけです。
一番大切なのはお金でもスキルでもアイデアでもなく
何よりも経営者の思い
このビジネスを成し遂げたいという思いなのです。
それを官僚や金融の人たち
ひょっとしたら学者の人たちも経験がないから分からないのです。
僕はやはり、何よりも強い思いだと思います。
『7つの習慣』でも書いていますが
経営というのは、バランス、折り合いをつけることなのです。
例えば長期と短期をバランスさせる。
それからミッションと利益を両立させる。
会社のスタートアップの頃というのはミッションも何もないのです。
会社が今、死にかかっているのに
ミッションなんて言ってる場合じゃないですよね。
とりあえずキャッシュを回していくことが一番の目的になるのです。
しかし、ある程度会社が順調になったら
やはり何のためにやるかという旗印、ゴールのようなものが無いと
経営がうまくいかない。
大企業でも赤字の時にはいかにキャッシュフローを
作るかということが大切。
でも業績が良いのであれば、人を育てたり
ミッションを実現させることを考えてみたりといった
バランスをとることが必要なのです。
『ビジョナリー・カンパニー』に書いてあるとおり
「A or B」じゃなくて、「A and B」です。どちらも大切なのです。
バランスをさせることがまさしく経営だと僕は思います。
それが経営者の仕事なのです。
ロイス:
今世の中は大きく変化しています。
ビジネス、コミュニケーション、移動、、、
これらはビジネスにどんな影響がありますか?
どのように対処すべきでしょうか?
岩田:
先ほどのミッションの話をしたように
そもそも企業やビジネスそれ自体は
自分たちの事業を通じて
世の中を良くするためにあると思っています。
ですから、やはりビジネスは大切であるし
個人においても仕事を通じて自己実現することは
とても正しいことだと思います。
会社の場合でも、それぞれの会社のミッションを実現することで
社会が進化したり、世の中が良くなっていくのだと思います。
これからもビジネスが世の中を変えていくことは必要です。
政府とか、極端に言うと、共産主義や社会主義等
そういった国が全てやるということよりも
もっとプライベート、個人が全力を尽くしてやっていく。
この点で、僕はビジネスというものが大切だと考えています。
ロイス:
人生とはなんでしょう。
私たちは仕事をし、情熱を持ってビジネスを興していますが
人生とはなんでしょう。一旦仕事を離れてみてください。
その中で今まで達成したことを教えて頂けますか?
岩田:
岩田:
これは個人のミッションに関係しますが
僕は自分が生きているというよりも
自分は生かされているという感覚を持っています。
特定の信仰があるわけではありませんが
僕は時として大きな力
『サムシング・グレート』を感じることがあります。
その大きな力が自分に命を与えてくれている
という感覚があるのです。
命を与えられている以上、その理由があるはずだと思うのです。
それは当然、ビジネスにおいて
人を育てたり、業績を上げることでもあるし
家族を育てるとか、子供を育てることも含まれると思います。
大きな質問で答えにくいのですが
僕はミッションを感じながら目の前のことを一生懸命やっている。
しかし同時に僕はとても後悔していることがあります。
僕は良い経営者なのかもしれませんが
おそらく良い父親ではないし
良いハズバンドでもないと思っています。
子どもや家族のためにしてあげることが
もっと多くあった気がするのです。
ロイス:
そう感じている人は本当に多いですよ。
岩田:
アメリカの本を読むと
大抵はファミリーが一番大切だと書いてあります。
しかし、日本の経営者の本を読むと
そういうことはあまり書いてありません。
僕もそう思っていました。
男にはまず仕事があって、ファミリーはその後だと。
でも、最近は考え方が変わってきたと思います。
やはりファミリーも大切です。
『7つの習慣』にも書いてありますが
まず自分の家族を大切にすること。
これは僕自身もそうだし、日本人の経営者やビジネスマンは
もっと家族を大切にしないといけないと思います。
なぜなら、結局最後に残るのは家族だからです。
会社や世の中は自分のことを裏切ることはありますが
家族は自分のことを裏切りません。
だから自分の反省点として
もっともっと家族を大切にすれば良かったと思います。
おそらく一般的に日本人はみんなそうだと思います。
ロイス:
こういう表現があります。
「家庭で失敗してしまったら、仕事でいくら成功したとしても、
埋め合わせることはできない。」
力強い家族を築くのが重要だと考えています。
それが国の強さになっていくのですから。
今日の世の中を見てみて、環境についてどう感じていますか?
ビジネスや家族への影響の観点から、どう思いますか?
岩田:
最近日本でも、ワークライフバランスの議論が出てきたりして
良い方向に向かっていると思います。
もちろんそのバランスは大切ですが
例えば仕事が面白くなくて、一生懸命楽しめないのであれば
家族に良い顔ができないと僕は思います。
やはり仕事も充実していて、その中でなんとか時間を作り
家族とも充実した時間を過ごす。
この両方が必要だと思います。
先ほどお話した「A or B」ではなく「A and B」というバランス。
未だに日本は、仕事重視の傾向があります。
しかしながら、家族だけでもいけないとも思います。
自分が1人の人間として元気いっぱいで
活力があるような状態だったら
きっと家族にも喜んでもらえると思います。
今の日本の動きは少しは良い方向に向かっているとは思いますが
仕事は仕事として、最大限自分の能力を
発揮できている状態でいる必要があります。
これは禅の言葉で禅機と言います。
このような状態でいてこそ、家族もその姿を見ることができる。
そして家族ともとても良い関係が築けるわけです。
仕事もしっかりやり、家族ともしっかりやる。
このバランスがとても大切なことだと思います。
ロイス:
ではビジネスのことを詳しくお聞きしたいと思います。
コンサルティング、コーチング、講演など色々なさっていますね。
岩田さんご自身が見出した、ビジネスで成功するための
原則や概念を他の方に教えていらっしゃる。
他の人たちがビジネスをより成功させるために
どのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか。
ミッション・ステートメントが必須ということはお話ししました。
他には何が必要でしょうか?
岩田:
色々なビジネスの経験や本やビジネススクールで学んだことを
スキルとして教えることも、もちろん大切です。
しかし僕が常に皆さんに言っているように
「to be good」であるべきです。
「to do good」は良いけれども
その更に先に「to be good」がある。
つまり良い人になりなさいということです。
「integrity」なのか「honesty」なのか分かりません。
良い経営者になることは大切ですが
それ以上に良い人間になりなさいということです。
僕は役員のトレーニングの際には、そういった話をします。
やはり人としてどうあるべきかを考えることは大切です。
いくらビジネス・スキルがあって
ファイナンスやマーケティングを分かっていても
良い人でなければ、僕としてはバツだと思います。
スキルを教えることは簡単なことですが
良い人になるということは教えるものではありません。
それは自分自身で学ぶことだと思います。
つまり、落ちているゴミは拾いなさい。
汚れている洗面台は拭きなさいということなのです。
こういったことができる人になることが僕の人生の目的でもあり
良い経営者、良いビジネスマン、良い人になることだと思います。
ロイス:
素晴らしい答えですね。
良い親であることについては、いかがでしょうか?
岩田:
Very tough questionですね。
私に応える資格はないと思いますが。
ロイス:
もし変えられるとしたら、どのように変えますか。
岩田:
やはりもっと我慢をすることです。
ことわざに『船長は唇から血が出るほど我慢する』というのがあります。
船長さんは船を動かすための様々な作業を、全部1人でできるので
いろいろと指示を出したい。
これは経営でもそうなのです。
ここでぐっと我慢してやらせてみるということが、とても大切なのです。
僕は、会社では比較的そうすることができます。
自分がフォーマルな状態にいるときは。
しかし、家にいるとなると僕は大きな間違いをしてしまいます。
子供が自分の所有物に見えてしまう。
あるいは自分の体の一部に見えてしまう。
だから細かく指示を出したり、すぐ怒ったり
指導してしまいます。
僕がもっと我慢できたら良かったと思います。
もっとやらせてみる。
褒めてあげる。
しかし、自分の一部だという意識が強かったので
厳しくしてしまった。
『巨人の星』はご存知でしょうか。
日本のスポーツドラマのように、スパルタで厳しく指導してしまった。
その結果、自分が望むのとは逆の方向に行ってしまった。
「patience」が足りなかった、忍耐が足りなかったと思います。
これとは反対で、僕のおやじは僕に
勉強しろと言ったことは1度もありません。
僕は自由で、自分で意思決定をしてきました。
大学入試の朝、玄関で靴を履いている時、母親に
「ところであなたは今日、どこの大学を受けるの」
と聞かれました。
つまり僕は自分で全て物事を決めていたのです。
自主的に自分で物事を考える習慣が付いてる。
特に親に相談することもありません。
僕はその反対の教育をしていました。
子供に細かく指導し続けたため、彼は自主的ではない。
セルフモチベーションがないんです。
だから僕は、結果的にうちのおやじは
良い教育をしてくれたと思うのです。
何もしなかったということですけれど。