社長の仕事術 2016/10/23

シャネル社長がハーレーで『ブォォォ....』黒の革ジャン&ブーツで出社!



ロイス:
この変化の過程において
あなたはマネージャー達のリーダーを務めていたわけですが
具体的にどのようなことをやっていましたか。


リシャール・コラス:
とにかく、そのことについて話し続けていました。
「絶対にやるぞ」ということを伝え続けていました。
私はジョン・F・ケネディの言葉が好きです。

「私たちは人間を月に送って、地球に無事生還させる」

これは少々行き過ぎた考えだと当時は思われました。
しかし同時に、この言葉が人々に明確な
目標・ビジョン・ミッションを与えたのです。
月に送るだけではなく、安全に帰還させる。
これは非常に明確な宣言なのです。
私はジョン・F・ケネディではありませんが
ビジョンに対してこれくらい明確であろうと思っています。
ミッションに対しても、また期待値に対しても。
人に与える権力、権限についても。
そして、それを何度も何度もやりました。

また、私自身もアイデアを実践しています。
あるローマの皇帝が
「模範で示すことが、権威になる」
と言っています。
模範は非常に重要なので、私自身も会社の中を見ながら
自分の狭い視点にとらわれず、外にも目を向け
新しいアイデアを得られるよう心がけています。

リーダーがこういった模範を見せること
道を開くことが非常に重要だと考えています。
自分自身が模範を示すことが重要なのです。


ロイス:
人はあなたをビジネスにおいて「成功している人」と見ます。
お会いする度に、新しいアイデアを持っていますしね。
あなた個人のことについて教えて頂けますか。
例えばバイクに乗られますよね。
また小説も書かれていますよね。


リシャール・コラス:
私が成功してるかどうかは分かりません。


ロイス:
そう言うと思っていましたよ。


リシャール・コラス:
「成功とは何か」という話ですよね。
私は、成功とは毎日の努力だと考えます。

そういえば1つ、成功できたかな、と思えることがあります。
私は若い社員にもこう言っています。

「君にも私のことを好きでいてほしい。
朝起きた時に、ああ、今日は会社に行きたくないな
仕事したくないなとは思わないでほしい。
毎朝、仕事に行くのが楽しいと思ってほしい。
例え大変な時でも、そう思ってほしい」

私だって大変な時もあります。
社員をクビにしなくてはならない時もあるし
議論しなくてはならない時もあるし
上司と喧嘩しなくてはならない時もある。
根拠はなくても強く信じているアイデアを
守らないといけない時も。

色々ありますが
「会社に行きたくない」と思ったことは
ただの一度もありません。

仕事をしている時間は人生の中でとても長い。
生きていくために毎日、毎月、毎年長時間働くわけです。
だから、仕事に行くのが幸せだというのは
非常に重要だと思うわけです。

そこにおいては、私は成功していると思えます。
だって、ああ、もう嫌だ、ベッドに戻りたい・・・
と思った日は1日もありませんから。

次に、これをお話したらあなたは私のことを
多重人格者と思われるかもしれませんね。
実は私の中には3人の人格がいます。
今でも小説も書いています。

最近の作品は比較的成功しました。
フランスで4冊、日本で6冊出版しました。
出版社からの依頼も頂きます。
ビジネスについてのエッセイではありません。
私はそのようなことを書くことのできる立場にはいません。
私なんてちっぽけなもんです。
でも、小説を書くのは大好きなのです。
それは全く異なる世界なのです。

皆私の小説を読んで、ここにネクタイして座ってる私を見て、
「え、同じ人じゃないよね」と言うのです。
私は完全に多重人格者なのです。
でも多重人格は素晴らしいことですよ。

また、私はハーレーに何年も乗っています。
最近やめてしまいましたが。
ちなみに、「バイク」ではありません。
「バイク」に乗るのではなく「ハーレー」に乗るのです。
「バイク」と「ハーレー」は違います。
BMWやホンダに乗ることは、カルチャーにはなり得ません。
しかし、ハーレーに乗ることはカルチャーなのです。
自分自身にタトゥーする。

Born to Ride。
ハーレー乗る・・・そういう世界なのです。
黒の革ジャンにブーツ履いて、ブォォォと行くのが、ハーレーです。
完全に多重人格ですよね。
何回かハーレーでオフィスに来たことがありますが
皆、驚いた顔をして、「ひょっとしてあれって私達の社長なの」
とこそこそ言ってる。
そうそう。同じ人なのですよ。

私は、人格は作り上げることができると考えています。
その気になればビジネス以外の人格さえも。

私は自分の本名で小説を書きます。
ペンネームを使い、誰が書いているか分からないようにする
選択肢もありましたが。
最初に書いた小説の最初の1行はこうでした。
「私はあたかも別人のように・・・」
なぜなら、本当にそう思うからです。

皆私のことを、「すごいビジネスマン」「社長」とか
「素晴らしい人」とか、「高級業界のどうのこうの」と言いますが
私は違うと自分で分かっています。
私は私です。
疑いを持つことは大切ですよ。

そもそも、自分がやっていることに満足しないこと。
そして、絶対傲慢にならないこと。
「イエー、俺は成功してるぜ」とならないこと。
外から見たら、私は大会社の社長であり
高級業界においてはとてもリスペクトされている会社です。
しかし私がやったわけではないのです。
オーナーがやったのです。
私はただ会社に仕えているだけなのです。
シャネルのイメージに仕え、スタッフに尽くしてるだけなのです。

だから私は「成功してるんだぜ、イエー」なんて
言える立場にいないのです。


ロイス:
では最後の質問です。
あなたは素晴らしいことをしてきて
素晴らしい人生を歩んできました。
あなたには「バケットリスト」
つまり「死ぬまでにしたいことのリスト」はありますか。
将来何をしたいですか。


リシャール・コラス:
私のリストはすごくシンプルです。
私には12歳の男の子がいます。
彼は大きな野心を持っていて
コンピューターサイエンスを学ぶために
マサチューセッツ工科大学に行きたいと言っています。
実際行けるかは分かりませんが
私と妻はできるだけのサポートをしてあげたいと思います。
10〜15年はかかりますね。

私はもうそんなに若くないけれど、仕事はやり続けます。
自分が明日リタイアするとは考えられないのです。
シャネルが私にいてほしいと言ってくれる以上は
絶対に居続けたいと思います。
今やってる仕事と変わるかもしれませんが。

それが1つ。
それがまず一番やりたいことです。
仕事をし続けるということ。

もし私が毎日家にいたら
「もう家にいないで。お願いだから出ていって」
と妻に言われて、離婚されてしまうと思います。

それから、小説を書き続けたいです。
もっともっと書きたいです。
私は後悔していることがあります。
私は怠け者だったのです。
年を取るまでしっかりとは書かなかった。
自分は小説が書けると分かっていたのに。
そしてイメージもしっかり持っていたのに。

他の人格でビジネスをやりながら
脳の一部では、
「あの登場人物、次の章でどうしよう・・・」
と考えていたのです。
きっと様々なストーリーが書けたはずです。
しかし残念ながら、人生の早い時期に書き始めなかった。
だからこそ今では、天に呼ばれるまで書き続けたい。
そう思っています。

私が書きたいと思う理由。
それは、私は書くと幸せになれるのです。
しばしばなぜ書くのかと尋ねられます。
「何か世界にメッセージを送りたいの」というように。
違います。
私は小さな男ですし。
そんな大それたものでもありません。

私は、登場人物たちに何が起こるか知りたいから書くのです。
少しおかしいですか。
でも、何かを書く時、私が書いてるのではなく、
そのキャラクターが私を先へと連れていってくれるのです。
だから章を始める時や本を書き始める時
これから何が起きるのか自分でもさっぱり分からないのです。


ロイス:
それはまるで人生のようですね。


リシャール・コラス:
そうですね。
私は私の本の最初の読者になりたいのです。
にも関わらず、皆優しくて出版までしていただける。
結果的に読者が増えてとても嬉しいです。

ひょっとしたら、何か言いたいことがあるのかもしれない。
でも分からないのです。
本当は何か言いたいことがあるのかも・・・
もしあるとしたら、それが何かを知りたい。
だから私は書き続けるんです。

そして、私は世界をもう少し楽しみたい。
まだ見たことのない素晴らしいものがあると思います。
だから少し時間を取って、妻と息子と共に
彼が卒業する前に、それらを見て回りたいと思います。
それは結果的に、イマジネーションや、ビジョン
世界観などが養われますよね。
同僚や部下、自分自身にもインスピレーションを
与えることができます。

これが私の「バケットリスト」です。
あるとすれば。


ロイス:
ありがとうございました。
あなたはとても素晴らしいことをシェアしてくださいました。
他に何か言い忘れたことはありませんか。


リシャール・コラス:
1つあります。
1カ月前フランスで、Chanel Re-Enchantment という
ミドルクラスマネジメントの新しいトレーニングプログラムが
始まりました。

6〜8年も会社にいると
毎日の仕事に追われたり
習慣で行動したりすることもあります。
だから私がゴッドファーザーになり
皆のサポートをすることにしました。

私はこれまでに多くのメッセージを受け取りました。
1つとても嬉しかったものがあります。
「今までで最高のTEDトークだったよ」
と言ってもらえたことです。

私が言いたいのは・・・
これもジョン・F・ケネディの言葉ですが

「国があなたに何をしてくれるかじゃなくて、
あなたが国に何をできるかを考えなさい」

私は模範を見せて、皆にこう言いました。
「あなたが会社を変えられる。あなたが責任者なんだから」
様々な大きな変化が起こっている中で、
どこに向かっているか分からなくなる時もあると思うのです。
自分が変わっても上司が変わらないということもあるでしょう。
でも、それは関係ないと言ったんです。

「あなたが変えればいい。できるんだから」
それを社員に伝えられて嬉しかったです。
「本物で誠実だ」と言ってもらえました。
私は常にそうあろうとしています。
私は心で感じることを言葉にするのです。

もし、私が誰かにすごく腹を立てたら
まずは、本当に言う必要があるかを自分の中で
しっかり確認した後
「ファック・ユー」と言います。
きっとその人は本当に滅茶苦茶にしているわけだから。
心から感じた時だけ言います。
心から感じてないのに罵ったら
それはその人を侮辱するだけですからね。

例えば、肩をぽんぽんとやって
「あなたはよくやった」って言う時も、
本当に感じてるから言うのです。
単にいい気持ちにさせようとか
そういうことではありません。
ここが大切です。
そうすると必ず伝わるんですよ。

これがマネージャーやリーダーに必要なことか分かりませんが
自分に正直でいることですね。
自分の真実を言う。
他に人の真実ではなく、自分の真実です。
これが非常に重要なのです。
そうすると
「この人はリップサービスじゃなくて真実を言っている」
と思ってもらえますから。

私からは以上です。


ロイス:
どうもありがとうございました。
お時間をご一緒できて嬉しかったです。

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