歴史 2018/06/19

経済は未曽有のバブル状態




この天然ガス・プロジェクト開発のために投じられた金は、パプアニューギニア政府の国家予算をはるかに上回るものであるが、そんな大量の資金が流入したことで、ここ数年のパプアニューギニア経済は一気に開花、バブル状態となっている。
そんなバブル経済の一例が「住宅価格の急騰」である。


この液化天然ガスのプロジェクトのために、パプアニューギニアには新たに数万人の外国人労働者が流入することになったが、最初に発生した問題は、彼らのための住居が充分に確保されないことであった。
そのため、首都ポートモレスビーでは住宅価格が暴騰した。


例えば、おそらく80平米ほどの新築マンションの家賃(3ベッドルーム)の家賃は、毎月80万円ほどに達した。
また、いくつかのホテルが新たにサービスアパートメントを数百軒単位で増設したが、それらも向こう4年間はすべて予約で一杯になってしまっている。


これは、地方都市でも同じことで、例えば第二の都市であるモロべ州ラエでも、3ベッドルームのアパートの家賃が50万円を下らない、という状況が発生したし、レストランの料理の価格さえも、数ヶ月単位で上昇していった。
民間企業の求人数も10年前に比して2倍になっている。


2013年のパプアニューギニアの国家予算は前年比で23パーセント増加するとされているが、これらの予算が地方の州政府やそれ以下のレベルにスムーズに流れて行くことができれば、そしてより重要な問題として、それを誰かがポケットに入れることなく、スムーズに運用されれば、パプアニューギニアの地方に住む人々は有史以来初めて、多少なりとも、本物の近代的発展を目撃することができるかもしれない。


世界銀行の試算によると、パプアニューギニア人の一人当たりのGNI(国民総所得)は1480米ドル(2011年)である。日本円で14万円程度ということだ。あれだけ石油や天然ガス、鉱物資源が出る国で、しかも人口が600万人程度しかいないのに、なぜ国民はこれだけの収入しか手にできないのか、ということであるが、理由は二つあって、一つはもちろん、「多国籍企業による利益収奪構造」であり、もう一つは、その多国籍企業と仲良くすることで政治家や官僚が多額の「賄賂」を手にしているからである。


つまり、国民の財産である国家の富は、外国人と一部のエリートたちに収奪されてしまっているのだ。
もう一つ追加するなら、天然ガスの生産地とパイプラインが敷設される地域の周辺地主だけには、「補償」という名目での現金が、どっさり落ちているということだろうか。
しかしそれ以外の地域では、発展などまったくない。


かつて、ある政党のパーティーに呼ばれ、そこで驚かされたことがある。
ポートモレスビー市内の中華レストランを貸し切って開かれたそのパーティーには、エクソンモービルの天然ガスプロジェクトで一夜にして「富豪」となったハイランド地方の地主らを含む多くの人が集まっていた。


私は、ある政治家から突然誘われて、とにかく見るだけ見てやろうという思いでそのパーティーに参加しただけだったが、そこで「バブル」の何たるかというものを露骨に見せつけられることになった。


中でも特に驚いたのが、「オークション」である。
そこでは様々な絵画や美術品が出品されたのだが、いずれもそんなに大したモノに見えなかった。
だが、そんな「美術品」が、異常なくらいの値段で次々と落札されていったのである。


例えば、ハイランド地方の村人の生活を描いた絵画であるが、最初の値段は日本円で50万円からスタートであった。


          (写真はハイランド地方の村)   


最終的にそれは、350万円くらいで落札されたのであるが、審美眼ゼロの目玉しか持ち合わせない身といえ、どの角度から見てもあんな絵が350万もするはずがないだろう!と思わざるを得なかった。


その場で大金を積んでいた成金地主は、いずれもボロボロの草履を履き、汚れたTシャツを着ているだけで、美術館に足を運んだり、豪勢な自宅で絵画をコレクションしているような人たちでもない。
辺境のジャングルにある、今だって上下水道どころか電気さえ無縁の「藁ぶき家屋」に住んでいるような「ど田舎のおっちゃん」たちである。


仕事で忙しく、その日の時間内に銀行に行けなかったため、財布の中に5千円くらいしか入っていなかった私は、あの200人はいたであろう「成金現地人」だけのパーティーの中で、おそらく唯一の外国人であったと同時に、最も「持たざる者」であったことは間違いなかった。



平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp.57‐59



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