経済 2018/04/27

日本の石油ルートの運命を握る中国海軍の圧力③




2011年9月27日、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、「今は南シナ海で武力を行使する好機だ。(中略)この好機を逃さず、迅速に行動を取るべきだ。(中略)他国への見せしめとして、フィリピンとベトナムを先に制圧する」とする評論を掲載した。


また、アメリカに対しても、「米国は現在も対テロ戦争から抜け出しておらず、中東問題も膠着しているため、南シナ海で第二の戦場を切り開く余裕はまったくない。米国のいかなる強靭姿勢も虚勢だ」と主張した。


まさに、「イケイケどんどん」の状態である。


このように近年、その「強気の度合い」を急激に増している中国海軍は、過去約20年近くにわたり、伝統的な沿海防衛型海軍からブルーウォーター・ネイビー(遠洋型海軍)への転換を第一目標として、軍の急速な現代化を図ってきた。


特に1982年、中国人民開放軍海軍司令官・劉華清が中国人民解放軍近代化計画の中で初めて示した「第一列島線」および「第二列島線」の概念は、今や中国海軍の拡大における指標となるものであるが、それ以来、中国海軍はこの戦略に基づいて着実に拡大を続けてきたと言える。


1980年代後半以降の中国における国防予算は、20年連続で二ケタ増を実現し、2008年は日本を超えて「世界第二位」に達しているが、中でも特に海軍増強の動きが顕著である。


周辺国は、いずれ中国海軍が南シナ海から「マラッカ海峡」、インド洋、ペルシャ湾に至るシーレーンを確保し、太平洋地域における政治的影響力拡大と権益支配を目指すのではと考えているが、この懸念は、初の航空母艦『遼寧』の就役や潜水艦部隊の増強によって急速に現実味を帯びている。


特に、「マラッカ海峡」から「南シナ海」に至る石油ルートは、中国海軍が2015年までに域内覇権の確立を目指すとした「第一列島線」の内側に位置しており、こうした中国の過激な「南方政策」が周辺諸国との紛争を引き起こした場合、この海域にある海上交通路(SLOC)によって石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)の供給を受けている日本は、大きな打撃を受けることになる。


つまり、南シナ海のシーレーン確保は、日本のエネルギー安全保障にとって重要なポイントなのだ。
しかし当の日本は、この海域の安定を「国家の生命線」の一部と認識しているくせに、この周辺地域に対して特段の軍事的、政治的影響力を持っていない。


そのため、日本の商船隊は引き続き「丸腰」「丸裸」の状態であり、仮に中国海軍がこの海域での海上覇権を完全に確立した場合、同海峡を通過する多くの船舶による輸入に依存する日本は、たちまちその安定的存立を、中国海軍の動向いかんによって左右されることになる。


このことは中国もよく知っており、最近では香港の新聞『信報』が、「仮に中国と日本が開戦した場合、中国は日本の主要な海上交通路を絶つことで、日本に砲撃を行うことなく飢え死にに追い込むことができる」と主張しているが、これはある意味で正しい指摘だ。


つまり、日本に対するSLOCさえ封鎖してしまえば、「石油や石炭、銅に鉄、餃子に至るまで輸入に頼っている 日本」は飢え死にするわけで、まさに日本国民にとっては「待ったなし」の状況なのだ。


先述の通り、もし中国海軍の封鎖によって南シナ海が「中国の海」となれば、日本は「マラッカ海峡ルート」からの資源調達をあきらめねばならなくなる。


その場合、頼みの綱はインドネシア島嶼群からフィリピン・ミンダナオ島南部を通過し、西南太平洋を通過して日本に向かうもう一つの航路、「ロンボク-マカッサル海峡ルート」ということになるのであるが、しかし残念ながら近い将来。そのルートの周辺地域も相当不安定になる可能性がある。


その原因になりかねないのが、マカッサル海峡に面するカリマンタン島北部の資源国「ブルネイ」の存在である。




平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp. 30-32





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