歴史 2018/07/31

南太平洋版「真珠の首飾り」を危惧するオーストラリア②




一方、周辺海域における中国海軍の「根拠地作り」も心配の種だ。
中国は最近になって、パプアニューギニア最大のラエ国際空港の拡張工事を落札しているが、これも日本は今後注視すべき事案である。


実際、インド洋から中東・アフリカにかけて「真珠の首飾り」と呼ばれる軍事関連拠点を作り続けてきた中国は、近い将来、ポートモレスビーに海軍基地を作ることも本気で検討している。


中国は当然ながら、将来の潜水艦作戦を有利に進めるため、いずれはパプアニューギニア周辺海域の水温分布図の測定なども行うことが予想されるが、最も恐るべき事態の一つは、この周辺において中国が海軍の根拠地となり得る拠点を構築すると同時に、周辺海域でのプレゼンスを強め(おそらく、漁船と漁業監視船、海洋調査船の組み合わせという、尖閣周辺で行っていたのと同じ方式)、練習艦隊の遠洋航海などの際における寄港を常態化させ、気がつけば中国海軍の潜水艦部隊まで進出していた、という状況ができあがることだろう。


そうなれば、日本やオーストラリアにとってはまさに一大事である。
オーストラリアに反旗を翻したフィジーには、すでに中国関連施設ができ始めている、という指摘もあるが、これらはつまり、「南太平洋版・真珠の首飾り」とでも言うべきものになる。


前述のジェトロ・アジア経済研究所の塩田氏は、「グアムから豪ダーウィンに物資を運ぶためには、パプアニューギニアの海域上空を飛ぶことになります。ハワイからダーウィンに行くためにはソロモン諸島の上空を通過します。これらの国が中国の側について妨害したら、米軍のロジスティックスが寸断されることになります」として、この地域の重要性を指摘している。


このようにして、パプアニューギニアには、中国の影がじわじわと迫っており、オーストラリアは全力でその浸透を阻止しようとしている。


やがて、この水面下での激しい戦いが、「豪中戦争」とも言えるような事態として、オモテの世界に現れることとなった。
それが、中国をバックにしたソマレ首相に対し、オーストラリアの息のかかったピーター・オニール財務大臣(現・首相)が反旗を翻した、2011年の政変である。




平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp.86 -87


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