機能不全による混乱
From: リー・ミルティア
命の危険があるような状況に直面した時には必ず、視床下部(脳の下部にある小さな領域)が警鐘を鳴らします。
その警鐘が副腎に伝わりある種のホルモンが大量に分泌されます。代表的なのはアドレナリンとコルチゾールですが、それらは脅威――それが現実でも空想上のものでも――を管理するのに役立ちます。
ストレスと闘うか逃げるかの闘争・逃走反応で最も魅力的なのは、脳はその脅威が現実なのか空想なのかを区別できない点です。
たとえば、エンジンの爆音を聞いたり、ホラー映画を見たり、悪夢を見たりすると、それが現実になるかもしれないという恐怖に襲われて交感神経系のスイッチが入ります。
実際に命の危険があるかどうかは関係ありません。過去の経験――快・不快に関わらず――に基づいて出された潜在意識の命令に、脳は兵士のように忠実に従って副腎に指令を送ります。
そして副腎は、今経験していること、あるいは空想上で経験していることに見合う化学物質のレシピを作ります。
闘争・逃走反応モードになると交感神経系が優位になります。
おそらく今のほうが200年前よりも頻繁にその状態になっています。社会から強いストレスを受けて交感神経系が常に働いています。一日中電話やEメールの着信音がなって即座の対応を要求されます。
子ども達の緊急の用事が発生したり、しょっちゅうサイレンの音が聞こえたりします。神経系はこういったものすべてを引き金として登録し、本当はそうでなくてもそのほとんどを脅威だと識別しています。
脅威を感じると生き残るために体の全エネルギーと化学物質が筋肉に向けられます。何が何でも生き残るという機能があるため、人は生き続けることができます。ですがその結果、細胞の成長と再生が犠牲になります。
野生の世界でライオンに追いかけられているところを想像してみてください。
この状況であなたの命は腹ペコの猫から逃げられるかどうかにかかっています。このとき体は、逃げるのに必要な超人的な究極の力が出せるようストレスホルモンのレシピを調合します。こういった反応は、生き残るようプログラミングされた太古の脳の部分から生じます。
現代社会で私達が脅威と感じるのは、怒った上司やバツの悪い状況といったことでしょうが、そういった状況では死から逃れられるほど大量の化学物質の分泌は必要ではありません。
ですが脳はその違いを区別できないため、私達の体は闘争・逃走反応に入ってしまいます。私達の体は頻繁に闘争・逃走反応に入り、通常その状態のままになってしまいます。それが現在の深刻な問題です。
なぜでしょうか?
野生の世界では、体が生存のために生成した化学物質を使ってライオンから逃げていました(あるいは逃げ損ねて死んでいました)。でもライオンのいない世界では現実的な危険はありません。
脳に記憶された潜在的な脅威だけでは、生成されたホルモンをすべて燃焼させることができません。過剰に生成された化学物質を排出できないと、恐ろしいことにそれらは体内に毒として残ってしまうのです。
ストレスホルモンの毒性は、いわゆる慢性的に高いストレスレベルの状態をもたらします。それは心疾患や免疫系の低下やメタボリックシンドロームといった慢性疾患を引き起こしたり、怒ったりイライラしやすくなります。
アメリカ心理学会によれば、高レベルのストレス状態は免疫系や循環器系や神経内分泌系に影響を与えるばかりか、幸福感を感じられなくなるなど、中枢神経系にも障害が起こります。
闘争・逃走反応が長期間続くと肉体的健康を適正に保つことができません。そればかりか、慢性的に高いレベルのストレス状態が続くと、学習したり創造力を発揮したり認知的思考をしたりすることができなくなります。
そういったことも健康全般にとって良いことではありません。感情的な引き金が引かれると、創意工夫や抽象的思考のことを忘れてしまいます。副交感神経系が働くと陽よりも陰が優位になります。
つまり、副交感神経系は成長と再生を助長します。私達の体では毎日大量の細胞が入れ替わっています。具合が良くない時に副交感神経系が細胞を再生してくれます。ですが、常に闘争・逃走反応レースのギアが入っていて休みを取らないでいると、副交感神経系は本来の働きができません。
そういった観点から、ストレスホルモンの過剰分泌を防ぎ、その代わりに副交感神経系が働くようにすることの重要性を理解できたでしょうか?副交感神経系と交感神経系が協力すれば体のバランスが整って健康に生活できます。
両者は正反対に働きます。つまり、闘争・逃走反応モードになっている間は、副交感神経系のスイッチは切れていて、細胞レベルでのサポートを提供することができません。交感神経系(闘争・逃走反応)と副交感神経系(休息・消化活動)との闘いでは、常に交感神経系が勝利します。
その理由は:ライオンに追いかけられている時には、細胞の再生やホルモンバランスや組織の最適な働きといったことは無条件にひっこめられて、生存のために恐竜サイズの猫から逃れることが最優先事項になるからです。
その脅威は偽物でそういった脅威は今はないということを理解すれば、副交感神経系が優位になって体をストレスを受ける前の自然な状態に戻してくれます。
つまり、ライオンに追いかけられているように感じ行動している時、でも実際は仕事で一日中デスクに貼り付いている時には、体にはその違いが分かりません。
正常な機能や創造的思考といったようなことより、生存本能のほうが優先されています。それはあなたが生き残るために全力でライオンから逃げるのを助けます。その「ライオン」とは上司や子どもの学校の校長先生や最高難度の議論だったりします。
リーからの宿題:
体にたまる毒素の生成を管理する必要がある時には、その方法のいくつかを選んで新しい習慣として取り入れることをぜひおすすめします。
神経系は経験を処理して、強力なホルモンを体の中に送り出します。その経験に見合った必要なレシピを作り出します。現在分かっているのは、神経系が体に指令を出すということです。それが自律神経系を整えるのに役立つ鍵です。
① 運動。肉体的活動をとおして体の外に化学物質を排出する時間をとる。ジョギングのような運動はストレスホルモンを燃焼させるので必須。また、ヨガのような運動は副交感神経系を刺激して成長や癒しや再生を促す。
② 感覚入力をコントロールする。ストレスになるような暴力的なテレビ番組や、肉体的に強いストレスを感じる環境など、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった感覚器が緊張するような経験を避ける。
-リー・ミルティア