浄財を呼び込む教育
金持ち大学の秘密
日本では教授たちの給料とランクは、年功序列で上がってゆく。65歳か70歳になると「定年退職」になる。できない30歳の講師を縁故または友達閥のコネで雇い、年功序列で昇格させていけば40年間ほど飼っていなければならない。
私が勤務しているスタンフォード大学フーバー研究所では定年退職がない。業績を着々と生み出す有名な看板教授を65歳だから辞めていただくという自滅発想はない。このような教授を抱えているので、その大学がより一層有名になる。
有名校になれば、世界中から優秀な学生が集まってくる。そして、卒業生たちが世界中で業績を上げ、その大学をさらに有名にする。金持ちになった卒業生は、競うかのように母校に目の眩むような金額を寄付する。寄付金を出す人にも、受ける大学にも、税金はかからない。米国に大金持ちの大学が多いのは、寄付をする人たちが多いからだ。また、富を社会に還元(浄財)することを最高の美徳とする社会土壌もある。
スタンフォード大学での一例を挙げる。マイクロソフト社の創立者ビル・ゲイツ(ハーバード大学中退)は、フーバー研究所から歩いて5分の場所に数百億円のコンピューターサイエンスの建物(美しい校舎)を寄付した。彼の名前が玄関の頭上に慎しく彫り込まれている。ゲイツと共にマイクロソフト社を設立したポール・アレンも「ゲイツ・ビル」とは道を隔てた側に、負けじとばかり、マイクロチップの研究所(校舎)を寄付した。
休講だらけの日本の大学
日本で、驚く事に出くわした。教授たちの「休講」が多いことだ。大きな休講用の掲示板に月曜日から土曜日までの休講案内の小さな紙が張り切れないほど垂れていた。垂れ幕状態で廊下の床を這っている。これぐらいのことで驚いてはいけないのだが、滞米が永すぎて忘れていたのだ。
日本の大学は、前期(4月中旬から7月末まで、週1回の授業で12回)と後期(9月末から12月中旬)に分けられており、6ヶ月間だけ開講されている。残りの6ヶ月は入試作業を1週間ほどお手伝いすれば、休み。
年間100万円、200万円と授業料(私立)を支払う学生という客が来ている時に、休講をしてはいけない。金をすでに払っている客をほったらかしにして、店を閉めてはいけない。
ちなみに、スタンフォード大学(私立)の授業料は、年間2万8500ドル=340万円である。世界的に有名なビジネス・スクール大学院の授業料は、445万円。教授が休講すると学生が暴動を起こす。
最近、日本で聞いた話。eメールが学生の間で100%普及しているので、休講をする教授は大学の事務室を介さないで、eメールで学生に「休講通知」を送るという。証拠が残らないようにするためだ。これを「隠れ休講」と呼ぶ。
西鋭夫著『日米魂力戦』
第5章 戦争と平成日本 -22