歴史 2018/10/22

サウジからの刺客


裏切り

19人のテロリストのうち、15名がサウジアラビア人であることが判明し、米国民を激しく動揺させた。理由がある。

米国民は、第一次湾岸・イラク戦争(1991年)で、サウジアラビアを凶暴なイラクから守ってやったと認識しており、またサウジアラビアが豊富な油田を持っているので、封建的で非民主的な砂漠の国に、「政治改革をせよ」と注文もつけず、アラブ諸国の中で特別扱いにしている国だと思っている。

そのサウジアラビアから15人ものテロリストがニューヨークを襲い、3000人以上を殺害したことは、米国民にとって許し難い裏切り行為であった。サウジアラビアの政府高官たちと王族の有力者たちがテロリストに裏資金を出していたのだろうと疑われている。



人種差別事件

全米に数多くいるアラブ系人たちが攻撃の的にされ、米社会が危険な精神状態に陥った。ブッシュ大統領はアラブ系人に差別攻撃をしてはいけないと何度も国民に呼びかけたが、次々とアラブ系市民に対して暴力を振るう者たちが出た。インド人たちも、アラブ系と見間違われ、殴られる事件があちこちで起こり始めた。

大統領はFBI(連邦警察)を出動させ、徹底的に人種差別事件を追及した。アメリカの恥、人種差別の悪夢再来を避けるためである。1941年12月7日、日本の真珠湾攻撃の直後、連邦政府と最高裁判所は日系アメリカ人をスパイと見なし、日系人全員を人里離れた荒野の収容所に隔離した。その過去の過ちを二度と犯さないという決心である。アラブ系に対する暴力行為は、見事に止まった。


残る疑念

目に見える差別は収まったが、サウジアラビアに対する怒りは煮えたぎっていた。サウジ王族の一人がニューヨーク市に100万ドル(1億2000万円)の救済金を寄付したが、市長は「汚れた金なぞいらない」と突き返し、米国民から喝采を受けた。

サウジアラビアは米国民の厳しい監視を受けることになり、この疑いはこれから長く尾を引き、第二次湾岸・イラク戦争が終結するとサウジ王族は政体改革(新しい国造り)を強いられることになるであろう。


イスラム・テロは「カミカゼ」か

世界貿易ビルが崩壊した直後から、「カミカゼ自殺攻撃」という言葉が頻繁に使われた。真珠湾攻撃と絡み合わせ、驚愕した米国民の怒りを表現したのだ。だが、数日後、ある解説者が全米テレビ放送で「日本の神風特攻隊は、一般市民を攻撃していない。軍事基地、軍事施設だけを攻撃した。

真珠湾攻撃では軍事施設を攻撃し、ホノルルの街を攻撃していない。イスラム・テロリストは、無防備の市民だけを攻撃した卑怯者である」と説明した。「カミカゼ」という単語は全米のマスコミから消えていった。


西鋭夫著『日米魂力戦』

第5章 戦争と平成日本 –30

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