歴史 2018/12/08

水男爵と水道民営化


From:岡崎 匡史
研究室より

水不足は世界を混乱させ紛争・戦争の導火線。

人間の生命を支配する水を確保するために、世界各国やグローバル企業が熾烈な争いをくり広げている。

「水男爵」(ウォーターバロン・Water Baron)という異名をもつ会社がある。

それは、フランスのスエズ(Suez Environment S.A.)とヴィヴェンディ(Vivendi)、英国のテームズウォーター(Thames Water)の3社である。

水男爵は、水道事業民営化の潮流に乗り、世界中で水道事業の拡大を図っている。

価値観の対立

水メジャーの出現により、水に対する価値観が「対立」にまで発展している。


(1)水は聖なるもので、人間が生きてゆくために必要不可欠な権利である。

(2)水は売買取引としての商品である。

当然、多国籍企業の水男爵は、水は利益を生み出す貴重な商品と見る。市場拡大のために、水の民営化に積極的に取り組み、大きなビジネスチャンスとみる。


水道民営化


しかし、水道民営化の歴史に画期的な成功例はなく、リスクと失敗が山積みされている。

水男爵が実権を握ると、水道価格は上昇する傾向が強い。

フィリピンでは水の価格が4倍になり、フランスでは利用者負担が1.5倍になった。しかも、水質は低下。

英国の水道料金は4.5倍へ高騰し、赤痢患者も6倍に上ったことから水道事業民営化が公衆衛生の低落を招いたと矢面に立たされた。

民営化と水不足が進行するほど不利な立場に追い詰められるのは貧困層である。

都市から離れたスラム街に住んでいる貧しい人たちは、高い料金を払って水を買わざるを得ない。

水男爵たちにとって、水を農村地や過疎地などに供給しても採算が取れない。都市から離れれば離れるほど、輸送コストが上乗せされてしまうからだ。


ー岡崎 匡史

PS . 以下の文献を参照しました。
・ヴァンダナ・シヴァ『ウォーター・ウォーズ』(緑風出版、2003年)
・柴田明夫『水戦争』(角川SCC新書、2007年)
・国連開発計画『国連開発計画(UNDP) 人間開発報告書2006』(国際協力出版会、2007年)


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