歴史 2018/09/14

水格差社会


From:岡崎 匡史
研究室より

「アジア最後のフロンティア・ミャンマー」

今から5年前のことだが、ミャンマー(ビルマ)の国土に足を踏み入れた。水質調査の一員とし参加する機会を得たからだ。

私の副専攻は開発学だったので、発展途上国の業務に一時期就いていたことがある。歴史で就職することは狭き門だったからだ。ミャンマーは、「援蒋ルート」を遮断するために「インパール作戦」が展開された土地なので、一度はこの目で見てみかったという希望もあった。

急速に経済発展を遂げるヤンゴンから入域許可が必要なマグウェーへ移動し、数日間にわたり村々を訪問し、下水や井戸水の大腸菌群等を検査した。

地下水や雨水が「飲み水」として適しているのか調査し、水質が悪く身体に悪影響を与える危険性があれば、実践的な対応策を打ち出すためだ。といっても、簡単なことではない。いかに、地域の人々の自主性や水道施設の管理をするのかが難しい。

それでも、調査団が訪れる度に、多くの村民に大歓迎された。

安全な水

私はアジアに行くたびに、お腹を壊したり、高熱を出す。慣れない土地に緊張もあるのだろう。
 

歯を磨くときもペットボトルの水を使い用心するが、それでも体調が悪くなる。

日本では、ほぼ100%に近い形で、浄水にアクセスすることができ清潔な環境に身体が慣れている。アジアに行ってから日本に帰ってくると、水道のありがたさに深く感謝する。

アジアやアフリカ地域では、容易に浄水にアクセスできない。「水格差社会」が歴然と存在している。発展途上国では貧困や飢餓で人間が死ぬのではなく、汚染された水を飲むことで病気になる。

水道施設が十分に整っていない極貧国では、きれいな水はごく一部の裕福層や特権階級でしか入手できない。汚染された川の水や雨水を貯めて飲む。水道の蛇口をひねっても、断水状態で水がでてこないこともある。

水と貧困

住む土地に大河が有り、水量が豊富にあっても、水質が悪いと飲み水に使えない。汚い水で疫病が発生し、免疫の弱い幼児と子供たちは下赤痢、腸チフスなどにかかり下痢を繰り返す。ビタミンが欠乏し栄養失調に陥る。


アジアやアフリカの途上国では、女性や子供は水を確保するために毎日数キロも歩いて川や井戸へ水汲みに行く。ときには何度も往復する。そのため、教育機会は失われ、教育水準が停滞したまま泥沼に嵌りこみ、貧困から抜け出せない。

社会的に弱い立場に立たされがちな女性にとって、公衆衛生の設備は不可欠だ。貧困国では、女性用トイレを備え付けることが立ち遅れている。

彼らにとって、日本のように上下水道が各家庭に整備されており、使いやすい清潔なトイレはまさに贅沢品なのだ。水道普及と公衆衛生の両輪こそが、健康な生活が送れる第一歩だ。


ー岡崎 匡史

P.S. 以下の文献を参考にしました。
・高橋裕『地球の水が危ない』(岩波書店、2003年)
・国連開発計画『国連開発計画(UNDP) 人間開発報告書2006』(国際協力出版会 、2007年)


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