歴史 2019/06/21

コペルニクスと太陽神信仰


From: 岡崎 匡史
研究室より

「地道説」を唱えたことで知られるポーランド人の聖職者ニコラウス・コペルニクス(1473〜1543)は、「近代科学の生みの親」として知られている。

古代ローマの天文学者クラウディオス・プトレマイオス(83〜168)が唱えた「天動説」に対して、コペルニクスは「地動説」を打ち立てた。

コペルニクスの業績を讃えて、物の見方が180度変わることを「コペルニクス的転換」とまで言う。

太陽神


しかし、コペルニクスの「地動説」の背景には宗教的信仰があったことは、ほとんど知られていない。コペルニクスは、太陽を「神」と見なしていたのである。

コペルニクスは著書『天球の回転について』で次のように言及している。


「宇宙の中心に太陽が静止している・・・(これを)中心という場所以外の何処に置くことが出来よう。これを宇宙の眼と呼び、宇宙の心と呼び、宇宙の支配者と呼ぶ人びとがいるが、それは当然である。トリスメギストス(ヘルメス神秘思想の伝説的な錬金術師)は、見える神と呼んだ」


コペルニクスは宇宙の中心は「太陽」であると信じていた。

それでは、「太陽」と「キリスト教」は、いかなる関係にあったのだろうか?

新プラトン主義


コペルニクスが活躍していた15世紀のヨーロッパを魅了したのは、「新プラトン主義」。

「新プラトン主義」は、「一なるもの」(ト・ヘン)から世界のあらゆるものは「流出」して生成されているという思想である。聖書の「創世記」(世界の現出)を思い起こさせる。

宇宙の秩序は「一者」(ト・ヘン)から生み出され、神は宇宙の万物にまで作用すると考えられた。太陽の光が「流出」をもたらすと信じられ、「太陽は単なる一天体ではなく本当は神の<象徴>なのだ」と見なされた。

コペルニクスからしてみれば、太陽は「一者」であり、宇宙の中心たる「神」の象徴である。否応でも、宇宙の中心は、太陽でなければならない。

この隠された歴史を知れば、コペルニクスの「地動説」の着想は科学的な裏付けに則っていたのではなく、「太陽神信仰」が大きく影響を及ぼしていたことがわかる。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・コペルニクス『天体の回転について』(岩波書店、1953年)
・森山茂『新・宇宙と地球の科学』(開成出版、2007年)

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