川の水で下痢をして「地下資源の存在」を知った日本兵
パプアニューギニアが資源大国であるのは、当時現地に上陸した将兵たちの間でも一部知られたことであった。
昭和17年に今のオロ州に上陸し、ココダからオーエンスタンレー山脈を踏破してポートモレスビー攻略を目指した「南海支隊」の一部隊では、ある川の近くに宿営地を張り、その水を沸騰して飲んだ自動車輜重隊の全員が下痢になってしまったと、という記録がある。
どうやら川の水が怪しいということで早速支隊の防疫給水部を呼び、水質検査をしたところ、非常に銅の成分が多いため、「飲料不適」という診断が下されたという。
この検査を行った防疫給水部の少尉は、「この川の上流には、日本では考えられないほどの立派な銅山があるはずだ。そこを通って流れるのがこの川の水だ。戦争が終わって平和になったら、探しに来るか? 大儲けできるに違いないぞ」と言ったというが、事実、このオーエンスタンレー山脈周辺には、今も大小いくつかの鉱山が操業しており、この山脈全体が金と銅を多く埋蔵していると考えられている。
実際、今でもココダ周辺の村人たちは、一生懸命に川で砂金を掘り、定期的に地元のマーケットに出して金の仲買人に販売して生計の足しにしているのだ。
また、金以外の地下資源も豊富だ。
かつて南海支隊が連合軍と激しい戦闘を行ったオロ州の沿岸地域(ブナ、ギルワ周辺)に行くと、途中から急に密林がなくなり、背の高いクナイ草ばかりで湿地の多い草原地帯となる。
初めてそこを訪れた時、なぜこんなに樹木が突然なくなるのだろうかと不思議だったが、ふと、「もしかして、この地面の下には大量の天然ガスや石油があって、その影響で木々が生えないのではないか」と、ひらめいた。
そして、その「素人のひらめき」が間違ってはいなかったことが後に証明されることとなる。
それから7年後、地元選出の国会議員で、中央政府で高等教育大臣を務めているデービット・アロレ氏に招待されて、オロ州東部の丘陵地帯をあちこち案内される機会を得た。
黒光りしているが、一発の弾丸も入っていない六連発の回転式ピストルをベルトに差して意気軒昂なアロレ氏と、その秘書が運転するトラックの荷台に乗り、オロ州南部の高台から壮大で美しい海岸線をカメラで撮影していた時、アロレ大臣が、
「今、この海岸地帯で、オーストラリアの資源探査会社が、ずっと石油などの調査をしている。そうだい、日本はまったく興味はないのかね?」
と、おっしゃったので、「ああ、やっぱりこの下は石油と天然ガスなんだ」と密かに膝を叩いたものであった。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか pp.70 -71