歴史 2018/07/27

南太平洋版「真珠の首飾り」を危惧するオーストラリア




さて、これだけの金をかけて作ったインフラ設備を、中国が丸裸のままで置いておくとは考えられない。これからあらゆる形で多くの人間を投入してくることになるだろう。


事実アフリカには2009年の段階で約75万人の中国人がいたとされており、そんな中国人労働者の多くが資源開発やインフラ整備などに従事している。(米『ニューヨークタイムズ』紙、2009年7月18日)。


そして彼らの多くが、元軍人である可能性は極めて高いのであり、いざ自国の権利が危機に晒された場合には、現地で「即席民兵」となることだって可能なのである。


もちろん、急に進出してきた中国が、パプアニューギニアを始めとする南太平洋諸国の人々に歓迎されているわけでは決してない。
むしろ、商売に無知な現地人を騙してあくどく金儲けをしたり、安い賃金で危険な重労働を課したりするため、かなり嫌われていると言った方が正しい。


事実、2006年にはトンガとソロモン諸島で、また2009年にはパプアニューギニアで大規模な反中国人暴動が発生し、中国人商店などへの焼き討ちなどが発生している。


しかし、こんな騒擾事件も中国にとっては決して悪い話ではないという見方もある。
なぜなら、大規模な反中暴動が発生した場合、中国は「自国民の保護」という名目で人民解放軍を現地に派遣するかもしれず、それがきっかけとなり、南太平洋における中国軍のプレゼンスを許してしまう事態に繋がる可能性があるからである。


オーストラリアは、この「人民戦争」に対する危機感を強く持っている。2012年6月12日付の『オーストラリアン』紙によると、2009年のオーストラリアの国防戦略の一部として、フィジーとパプアニューギニアに対し、有事の際にはオーストラリア軍が出動する計画があったことが指摘されているが、その「想定有事」とされる状況の中には、現地に進出している中国の影響によって、市民の間に何らかの騒擾が起こされる可能性も含まれているのである。


この際に「課題」として残れたのは、ポートモレスビーにオーストラリア軍部隊を速やかに展開し、オーストラリア国籍の人々を救出し得るだけの輸送補給能力が現実に維持できるのか、という点のほか、その民間人救出任務と同時に行わねばならない「現地政府」の防衛という任務が果たして両立可能であるか、という極めて「現実的」かつ「実践的」なものであった。



平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp. 84-86



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