世界的な「銅不足」とパプアニューギニアの「金」「銅」資源
パプアニューギニア経済の中でも、鉱業・石油ガス部門からの収入はかなり大きなウエイトを占めており、同国輸出額の80パーセント、税収入の3分の1に上る。
過去10年にわたって順調だった経済を支えてきた鉱業であるが、その傾向は今後もしばらく続くであろう。
何しろ、まだ手をつけられていない大規模鉱業も複数あり、将来の開発を目指して資源メジャーなどが動き出しているのだ。
一方で、今後の不足が懸念されている資源といえば「銅」である。
世界最大の資源メジャーであるBHPビリトン社の試算によると、2020年までに世界は毎年1千万トンの銅不足に陥ると言われている。
これは、中国などにおける経済発展がこの調子で増加すれば、という話であるが、しかし現実的に見えても、近い将来における銅不足は深刻だという話はあちこちで囁かれている。
現在、日本人など先進国の人間が使用する銅の量は、一人あたり8キロほどであり、中国人のそれは4キロ相当だそうだが、2020年までには中国人の使用量も先進国並みになるというのだ。
そしてこの状況は、「銅産出大国」であるパプアニューギニアにとっては、朗報以外の何ものでもない。
なぜなら、パプアニューギニアでは今日でも新たな銅鉱脈が次々と見つかっており、その潜在埋蔵量は増加しているからである。
実際に、多くの外資系企業がこの国で鉱山開発を行っているが、現在操業中の銅鉱山は、ウエスタン州で過去数十年にわたって大規模な操業を続けてきた「オク・テディ金・銅鉱山」である。
インドネシアの国境からわずか18キロのところにあるこの鉱山では、1984年に金が発見され、その3年後には銅鉱脈が発見された。
この鉱山は、BHPビリトン社(英)が開発を担当し、1990年代後半までパプアニューギニア政府予算の10パーセントを支えるほどの莫大な利益を上げていた。
後で少し触れるが、この鉱山では大規模な公害問題が発生したため、BHPはすでに表面上は撤退している。
一方、その膨大な地下資源量が徐々に明らかになっているため、操業閉鎖予定の時期がさらに10年以上も先延ばしにされることが決定している。
2008年には、年間約16万トンの銅と約52万オンスの金を産出しており、我々日本人の生活もまた、ここから大きな恩恵を受けている。
一方、ニュークレスト鉱業社(オーストラリア)と、銅の生産量では世界第5位を誇るハーモニー・ゴールド社(南アフリカ本社)は、モロべ州の山岳地帯にある「ワフィ・ゴルプ鉱山」において大規模操業を予定している。
両者は合弁で約4300億円(1ドル=93円換算)をかけ、2019年から銅生産の本格操業を行う予定であるが、寿命26年と言われているこの鉱山では、年間33万トンの銅と55万オンスの金の産出が見込まれており、現在の価格からすれば、年間売上げは2300億円以上にも達するだろう。
パプアニューギニア政府は、最大30パーセントまでの株式を取得することができるとされており、うまくいけば、同国は年間800億円以上の追加的収入を次の35年にわたって得ることができることになる。
これが実現すれば、パプアニューギニアの国民は一層富めることになるから、とても良いことである。
もう一つパプアニューギニアで有名なのは、その膨大な金の資源量である。2010年には、金の生産量においては世界第11位に達しており、数多く存在する世界クラスの鉱山が現在操業を継続している。
先述の「ワフィ・ゴルプ鉱山」と同じモロべ州には、「ヒデュン・バレー」という鉱山がある。
この鉱山は、操業開始が2010年と比較的新しく、推定鉱石埋蔵量は687万トンで、「ワフィ・ゴルプ鉱山プロジェクト」を担当するのと同じ鉱山会社が50パーセントずつ株式を保有しながら運営している。
ニューギニア本島にあるもう一つの巨大金鉱山といえば、エンガ州にある「ポルゲラ鉱山」だ。
ここは、1990年よりカナダ系資源企業「バリック・ゴールド社」がオペレーターとして操業を行っており、2008年には62万オンス以上の年間金生産量を達成している。
金の推定埋蔵量は790万オンスにものぼる。
しかし、これらの中でも、世界最大級の誇る金鉱山といえば、やはり「リヒール鉱山」ということになるだろう。「リヒール鉱山」は、首都ポートモレスビーから北東へ約900キロに位置するニューアイルランド州リヒール島にある。
この鉱山は、1983年からオーストラリアの資源会社などによって探鉱が行われ、巨大な金鉱脈が発見された。
その後、BHPビリトン社と並ぶ世界最大クラスのスーパー資源メジャー、「リオ・ティント社」によって開発が行われ、1997年から本格操業に入っている。
この鉱山の推定鉱物資源量は、なんと8億3000万トン(!)と言われており、2009年の年間金生産量だけでも約85万オンスに達した。
現在、年間産金量を100万オンスに持っていくためのプロジェクトが進行中である。
この島には、オーストラリア・ケアンズからの直行便さえ出ており、その便が出発する日には、ケアンズ空港のロビーには鉱山労働者らの姿が多く見られるようになる。
景気が良いのだな、と思わせる一瞬だ。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか pp. 60-63