リゾート地「マダン」にあふれる中国人労働者②
もう一つ、同じマダンで中国に「やられっぱなし」と言える事案がある。
それが、「太平洋海洋産業地区(PMIZ)」と呼ばれる、「海産物加工工業団地」の建設である。
これは、一般的な工業団地の「海産物版」であるが、やはりすべて中国の金で中国の企業が建設することになっている。
この建設によっって近い将来、中国の食糧関係企業もマダンに押し寄せ、そこで得られた海産物は、そのまますべて中国に運ばれることになるだろう。
このプロジェクトでは、パプアニューギニア政府は中国輸出入銀行から「7900万米ドル」を借り入れるが、その条件は「最低70パーセントの建設工事を中国企業が受注する」というものである。
この工事を受注するのは「瀋陽國際經濟技術合作公司」という会社であるが、実質すべての設備や製品は中国からの輸入になるであろうから、地元の産業がこれで潤うということも、ほとんどない。
しかもここは経済特区でもあるために、この「公司」には建設事業から上がる利益に対する税金もいっさいかからない上、将来パプアニューギニア政府は中国の借入金に対して総額1600万ドルの利息を付けて返済することになっているから、中国にしてみれば「坊主丸儲け、しかも利息つき」ということになる。
さらにすごいのは、このプロジェクトにおける資金の取り扱いはすべて中国側が行うことになっており、また、これらの一連の借入契約はすべて「パプアニューギニア国内の事業のために同国内で行われるもの」であるにも関わらず、適用されるのは「中国の国内法」であるというから驚きである。
この問題については、当然ながら「乱獲」と「周辺珊瑚礁などの環境破壊」を懸念する地元民からの反対運動が起きているが、その先頭に立っているのがマダン選出のオーストラリア系白人議員、ケン・フェアウェザー氏である。
彼は、この中国企業丸儲けの構造と、周辺における乱獲を懸念して、徹底的な反対運動を起こしたのであるが、2,012年2月、元漁業大臣であるベン・セリム氏(同じくマダン州選出)に国会議事堂で「暴行」を受け、それに対して拳で反撃、「熱き男どうしの殴り合い」を演じたという熱血漢である。
フェアウェザー議員は、オーストラリア生まれの白人であるが、後述する2011年8月の政変以降、一時期は大臣に就任し、オーストラリアの支援する白人ハーフのピーター・オニール首相を支えてきた人である。
一方、殴り掛かったベン・セリム氏は、同じマダン州でも、中国のラム・ニッケル鉱山があるラム地方選出の議員であり、漁業大臣としてマダンにおけるPMIZを積極的に推進してきた。
中国に傾斜したマイケル・ソマレ氏の「忠臣の一人」でもあり、ソマレ氏の息子のアーサー・ソマレ元公共企業大臣とも非常に仲が良かった人物だ。
つまり、一方はオーストラリアの意向を強く受けた議員(=豪州派)であり、もう一方はソマレ派(=中国派)ということが言えるだろうが、要するに彼らの間には、「白人支配のなごり」VS「パプアニューギニア人のアイデンティティ」という、別の意味での戦いもあったのだろう。
この2人の殴り合いは、豪中覇権争いの「縮図」とも言えるが、それにしても、マダン地主の反対派が「拉致・暴行」され、フェアウェザー氏まで「ぶん殴られた(こちらはやり返したが)」ことを考えると、中国がらみのことは何かと「暴力ざた」になることが多い。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか pp.82 -84