リゾート地「マダン」にあふれる中国人労働者
ニューギニア本島の北岸にあるマダンは、かつて第二次大戦中に日本陸軍の根拠地があった地域であり、今日でも戦跡が多く残る場所である。
海と山が大変に美しい観光地であり、治安も比較的穏やかなところもあるため、日本人のみならず、多くの欧米人ダイバーも訪れるパプアニューギニア国内最大の「リゾート地」だ。
私自身、何度かスキューバダイビングに行ったが、潜ってすぐのところに美しい珊瑚礁が広がり、そこに大きなアカウミガメがべっとりと張り付いていた、夢のような光景を今でも思い出す。
こんな美しいマダン州の山奥に、中国は2008年以来、世界最大クラスの「ニッケル・コバルト鉱山」を建設し、現在も操業を行っている。
この鉱山の操業が本格化するにつれ、美しかったマダンの街には、英語もろくに話せない中国人労働者が増えている。
私自身が最後にマダンを訪れたのは3年以上前のことだが、その時も確かに中国人の数が増えたなと感じたので、今はもっと多いだろう。
地元民いわく、治安も徐々に悪化しているようだ。
彼らの多くは、まともなビザを有していないと言われており、中には夜間、沖合にやって来た貨物船から一気に上陸し、そのまま現地に「溶け込んで」しまう連中も多いと聞く。
彼らがいったいどのような背景を持ち、誰のどういう意図で働いているのか、まったく不明だが、こんな連中の中に、「軍関係」「情報関係」の人間が混じっていないなどと、いったい誰が断定できるだろうか。
この「ラム・ニッケル鉱山」プロジェクトの最大の問題は、その大量の鉱山廃棄物である。
それらは、山の中から長いパイプラインを伝ってマダンの対岸の海に直接「投棄」されることになっている。
その量たるや、20年間で1億トンにものぼるというから驚きである。
もちろん、それらは強酸性の猛毒(鉱毒水)であり、さすがに地元民が「大反対」をして一時期パイプラインの稼働について裁判所から中止命令が出た。
だが、地元の反対派代表が「拉致されて暴行を受ける」という、きな臭い事件も発生しており、2012年の頭になってパプアニューギニア最高裁は鉱山の稼働容認の判決を発表、5月からは実際に月間数十万トンもの鉱毒水がビスマルク海に流されて始めている。
これはやがて、あの美しいマダンの生態系を大きく破壊することになるだろう。当地出身の私の友人も、このことを本気で恐れている。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか pp. 81-82