オーストラリアに「切られた」ナマ副首相
自分こそオニールを首相にさせてやった「キング・メーカー」だと位置づけていたナマ副首相は、一方でオニール氏を影で操ろうとするオーストラリアに向けて批判的なコメントを発することはなかった。
しかし、多額の政界工作費とも疑われた200億円近い「現ナマ」をマレーシアから運んだという報道がなされ、「政界の汚れ役」のイメージが定着し始めた頃から、ナマ副首相の「汚れ具合」をさらに誇張するスキャンダル情報が一気に流されるようになる。
しかも、今回の情報の出先はオーストラリアであった。
オーストラリアの新聞がすっぱ抜いた記事によると、「議会クーデター」の数ヵ月前である2011年4月のある日、ナマ氏はシドニーにある「スターカジノ」を訪れ、大いに遊んでいた。
ナマ氏はそこで、大好きなお酒をたくさん飲んで、大金を振りかざしてブラックジャックをしていたのであるが、その時に突然、目の前のディーラー(白人男性)に向けて、下品きわまりない「性的暴言」を吐いたのだという。
その言動たるや、あまりに「生々しく」「卑猥」であって、「今夜、一緒にどうだい」程度の話ではない、「三流ポルノ映画なみ」の露骨な台詞のオンパレードなのだ。
これに対し、相手のオーストラリア人男性従業員が、再三「やめてください」と要請したにもかかわらず、完全に一人で盛り上がってしまったナマ氏は彼を「口説き」続け、最後には警備員によってつまみ出されたというのだ。
この報道を受けたナマ副首相は最初、「自分はそんなところにはいなかった」と言っていたが、途中で態度を変えて、「確かに自分はいたけれども、そんな暴言など吐いていない」と言い出した。
実は、つまみ出された段階でデポジットに預けていたお金が80万豪ドル(当時のレートで約6500万円)もあったとかで、これもナマ副首相は否定しているが、オーストラリアの新聞はジャンジャンと書いてしまっている。
しかも、ナマ副首相が一転してその場にいたことを認めたのは、この6500万円という金が惜しかったからではないか、などという格好の悪い憶測までついている。
今まで「雄々しさ」を売りにしていたナマ副首相は、この記事に対して「私はゲイではない!」とも反論しているが、これに対して早速噛みついたのが、マイケル・ソマレ氏だ。
ソマレ氏は、「パプアニューギニアのリーダーの一人として、外国に行ったら国民を代表している立場として、恥ずかしくない振る舞いをすべきだ。多くのパプアニューギニア人は本当に今回のナマ氏の行いを情けなく思っている。ナマ氏の周りには、すでに多くの怪しい、うさん臭い疑惑がたくさんある。オニール氏は、ただちにナマ氏を解任すべきだ」などと強く抗議した。
しかし、オニール首相はナマ副首相を解任することはなかった。
平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第二章 謀略渦巻く「豪中戦争」 pp.109 -111