歴史 2018/06/08

「巨大資源国」パプアニューギニアの戦略的重要性




フィジーが急速に「キューバ化」しているのと同様、近年、同じメラネシア圏に属するパプアニューギニアもまた、南太平洋の安全保障における地政学上の要衝と化している。


これらの国々には近年、厖大な地下資源が眠っていることが明らかになりつつあるが、特にパプアニューギニアは、オーストラリアを除けば南太平洋最大の資源国であり、現在、「未曽有の好景気」に沸いている。


2012年12月にアジア開発銀行が発行した最新版の『パシフィック・エコノミック・モニター』によると、パプアニューギニアは引き続き、アジア太平洋州の中で最も成長著しい国家の一つであるということであり、同国の2011年のGDP成長率は、なんと11.1パーセントであった。


この国は、石油、天然ガス、金、銅、レアメタル(ニッケル、コバルト等)などの豊富な地下資源に加え、マグロ類の漁獲高は一国としては世界最大を誇る。
日本からは直行便でわずか6時間半の距離にあるが、ここは知る人ぞ知る「大の親日国」でもある。
彼らの「親日さ」については第4章で詳述する。


フィジーと並んで南太平洋島嶼国のリーダー的立場にあるパプアニューギニアは、オーストラリアを除けば、太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国の中でも最大の国家である。
人口は670万人以上、約800の部族と800の言語を有し、地理的には世界で2番目に大きな島であるニューギニア島の東半分と、ニューブリテン島、ニューアイルランド島、ブーゲンビル島などの島嶼地域で構成されている。


国家元首に英エリザベス女王を戴く英連邦の一員であり、外務省の説明によると、PIF諸国のうち唯一のAPEC加盟国として、「太平洋島嶼国のリーダーとして強い主体性を発揮」している国家である。


前述の通り、この国は現在、各種地下資源開発プロジェクトが牽引役となり、未曽有の「バブル経済」に沸いている。
中でも最も注目されている資源プロジェクトは、「エクソン・モービル社(アメリカ)」主導で開発が進められている、液化天然ガスの巨大プロジェクトだ。


このプロジェクトは、パプアニューギニア国のハイランド地方という、標高数千メートルに至る峻険な山岳地帯において産出する膨大な天然ガスを採取し、それを山間部から海中を通して敷設する700キロ以上ものパイプラインで首都のポートモレスビー近郊まで運んだ後、そこで液化して輸出するという、総額1兆数千億円規模の巨大プロジェクトである。
これが今日の、パプアニューギニアにける「未曽有の好景気」を作り出したのだ。


プロジェクト期間は30年間で、年間660万トン、合計で9兆立法フィート以上もの天然ガスを産出するが、その半分が日本に輸出されることが決まっており、東京電力や大阪ガスが購入契約を済ませている。


また、残りのガスは台湾や中国にも輸出される。
日本企業は、このプロジェクトに4.7パーセントほど出資している。
この急峻な山岳地帯から得られる天然ガスの輸出プロジェクトは、もともとアジア向けとして想定されていたわけではない。


これは当初、「パプアニューギニア・クイーンズランド・ガス・パイプライン計画」と呼ばれ、スーパー石油メジャーのシェブロン社主導で、3800キロにも及ぶパイプラインを敷き、オーストラリアのクイーンズランド州に供給しようという壮大なものであった。


平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
第一章 いま、南太平洋で何が起こっているのか  pp.53 -55



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