誰が日本の農業を潰したのか
農業の行く末
農家の人たちから厳しいお叱りを受けるかもしれないが、客観的に見ると、日本の農業はもう終わった。農業を守り、競争力をつけ強くしてゆくはずの農林水産省に、時間をかけて潰されたのだ。
稲作は日本文化の土台であるが、自民党政府の「減反政策」で、田植えをしなければ生活保護のような「補助金」が貰えるという、甘い自滅的な罠にはめられてしまった。世界の模範にされていた日本式稲作は、変わりゆく世界市場の競争にも参加せず、才能を出す機会もなく、意欲を失い、衰えてゆき、農業崩壊の象徴的な遺物になった。
社会福祉に甘んじた日本農業の生産効率は地に落ち、自活できる生命力は皆無である。それ故、さらなる「補助金」がつぎ込まれる。
農林族
これ全て、自民党主催の「農民票」を目当てにした政策だ。日本の人口は戦後60年間、都市に集中しているのにもかかわらず、各県ごとの議員定数は昔のままなので、非民主主義的な現象が起こった。都市と地方(農村)の1票の格差は5倍近く開いている。地方の1票は、東京の5票分の価値があるという信じられない選挙のカラクリである。
農林族と呼ばれる議員たちは、農民票の減少をくい止めるため、種々の「保障」を与え、コメを作らせ、そのコメを高い値(税金)で買い取り、余剰米という異常な現象を創り出した。古米、古々米と言われる余剰米は、現在300万トンから400万トンあり、倉庫に保管されている。倉庫保管料は1兆円近い。もちろん、国民の税金が使われる。
日本人は古いコメを食べないので、高く買われた余剰米はたたき売りの値段で家畜飼料に回される。このような信じがたい暴策がすでに何十年行われてきたのか。
北朝鮮への援助米
1994年と98年に「米朝会議」が開かれ、北朝鮮を支援するため援助米を送ることが決まり、日本も「コメを出せ」とクリントン大統領に言われ、北朝鮮に出したのはこの余剰米であった。これまでに、100万トンもタダで上げた。
これは、農林族にとって空から降ってきたような絶好の機会である。面大な量の古米・古々米を減らし、保管料を減らし、稲作を続行させれば「農民票」の確保に繫がるので、北朝鮮への「人道的なコメ支援」は大歓迎であろう。
派閥の利益と日本の国益を錯覚しているのか。派閥の利権を得ることが日本の外交だと思い違いをしているのか。北朝鮮の脅しを都合よく使い、崩壊している農業政策を続行させるためには、国民の誇りや生命までも利用するつもりなのか。
自民党政府が北朝鮮の「日本人拉致」を20年間も無視したのは、「農民票」と「余剰米減らし」のためなのか。近くて遠い国へ拉致された若い日本人たちは、権力維持への人身御供だったのだろうか。
西鋭夫著『日米魂力戦』
第4章「国の意識」の違い –16