歴史 2017/09/27

日本人へ


父母と兄、そして家族


数学好きの7歳年上の兄がハワイで亡くなった。彼が旧制中学生の時、日本帝国が負けた。アルバイトで学費を捻出していた兄は水産学を専攻し、卒業航海で七つの海を渡り、ハワイへ寄港した。

ハワイ生まれの女と結婚し、彼はハワイ島の静かな町に移住した。兄が私の留学に資金を出してくれた。夏休み、冬休みにハワイに来いと旅費を送ってくれた。その兄とやっと話ができるようになった時、「癌だ」と連絡がきた。何度も見舞いに行った。やせ細った兄の顔に、若い時の、あの惚れ惚れとする男前の面影を見た。

哲学を愛し武道を敬い律儀であった父と、おおらかで和歌俳句を愛し父に惚れていた母は、敗戦直後の悲惨な時代の貧しい家計にもかかわらず、私たち兄弟姉妹をのびのびと自由に、知性と品性のある生き方が大切だと育ててくれた。誇りと真の強さを内に秘めた両親であった。

妻マリア、娘麗蘭、息子武尊は、生命の歓びと無限の愛を教えてくれた。

日本国の礎


近代日本の国造りに献身的な働きをし、死をも恐れなかった勇敢な人々へ、戦争の破壊と敗戦の屈辱から這い上がり、飢えと絶望で茫然としていた国を世界の富国へと築き上げた人々へ、そして日本の輝かしい伝統文化と心のよりどころとなる気品を大切にして生きた人々へ、私は感謝と追悼の想いを持ちつつ、この本を捧げる。



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