歴史 2018/01/25

インディアン殲滅作戦と酒


先住民に対する偏見

自然が輝いているアラスカ半島の小さな「窪み」では完全禁酒であった。缶詰会社が経営する小さなコンビニのような店があり、私たちはツケで買い物ができたが、酒は売っていない。

イヌイットやアリュー人に酒を飲ませると酒乱になり、工場内での風紀・秩序は乱れ、仕事もせず大暴れをし、殺人さえも起きると白人経営者は信じている。前例があるからだ。

数百年前から続いている「アル中」の前例である。アメリカン・インディアンたちの悲惨な今の実情は、400年前にヨーロッパからアメリカ大陸に移住してきた白人たちが、先住民インディアンたちにウイスキーを飲ませた時に始まる。

インディアンたちには酒に対する抵抗力がなく、次から次へと酒に冒されていった。酔っぱらっている間に土地(大陸)を白人たちに盗まれた。酔っていなくても、戦いを挑んでも、土地は取り上げられた。


インディアン壊滅作戦

連邦政府公認の野牛・バッファロー全滅作戦はインディアンたちの主食を奪う策略で、見事に成功した。ニューヨークからサンフランシスコまで大陸を覆うように6000万頭もいた野牛は全滅し、わずか数百頭が今「イエロー・ストーン国立公園」で大切に保護されている。

もっと残酷なインディアン壊滅作戦は、米国政府が天然痘のばい菌が埋められていた毛布を「和解の証」としてインディアンたちに与えたことだ。免疫のないインディアンたちは、次々と死んでいった。

土地を奪われ、文化を潰され、武力に勝る白人社会からも締め出されたインディアン部族の人口は激減し、生き残った者たちは夢とロマンを失い、やがて誇りも失い、みじめな現実からの逃避だけが、空虚な心を癒してくれるかのように、酒に溺れていった。



イヌイットも、インディアン同様、アルコールに弱い。同じような運命に遭う可能性が高いが、彼らの伝統文化がまだ現存しているのは、アラスカの冬に土地を護られていたからであろう。想像を絶する冬将軍がアラスカ全土に君臨し、イヌイットたちを守っている。


秋の訪れ

アラスカの夏は、冷たい風に秋の香りがした9月中旬で終わった。鮭漁も終わった。缶詰工場の騒音も消え、イヌイットやアリューは3ヵ月分の賃金をもらい、それぞれ漁船か水上飛行機でもっと北の故郷に帰っていった。

好きになった美しいアリューの女も水上飛行機から「来年も」と手を振った。最後まで残っていたのは、工場長を含めた白人管理職の数人と、イクラおじさんと私。私は、大学の授業が始まる直前までアラスカに留まっていたかったからだ。

他の人たちは、工場を来年の夏まで閉めておくために忙しく働いていた。冬の大嵐で桟橋がなくなった時もあったと工場長が教えてくれた。



西鋭夫著『日米魂力戦』

第3章「アラスカ半島でイクラ造り」−7

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