速読術
From:岡崎 匡史
研究室より
「来週までに、300ページ読んで内容をまとめておけ」
優しい笑顔で、課題を課してくる某先生に、学生のころは恐怖を感じていた。
本をもっと早く読めるようになりたい。
速読が出来るようになれば、どれほど楽になるだろう。1冊を10分で読破できれば、研究がはかどるに違いない。たくさん本を読めれば、もっと賢くなるはず、、、速読にずっと憧れを抱いていた。
しかし、さまざまな速読術を試しても、どんなに勉強しても、私は1冊を10分で読むことは出来ない。本の文字を目で追うことはできるが、頭には入ってこない。まして、論理展開を追うこともできない。
本との格闘
そんな私も膨大な本を読んできたので、自然に本を読むスピードは上がった。なぜなら、学問の「方法論」を学び、何十冊、何百冊と膨大な本や論文と格闘し、自分のなかに「核」が創られたからだ。
膨大な量の本を読んだからこそ、その知識に支えられて、なんとなくだが速読ができる。
私は、自分の知識量に応じて、(1)「速読ができる本」(2)「速読すべきではない本」(3)「そもそも速読できない本」と区別している。
(1)「速読ができる本」
自分が読みたい本の分野について、著者と同等、あるいはそれ以上の知識を持っている必要があります。
書かれている内容は、すでに知っていることが多いので、自分が知らない知識や独創的なアイデアが紹介されている箇所に注目して本を読み進めればよい。自分の知識を補うように、本を読み進める。
あるいは、参考文献や脚注を最初に読んで、知らない文献が使われていたら、その箇所の本文だけを読む。専門家にとって、脚注を読むほうが知識を吸収しやすいことは多々ある。
(2)「速読すべきではない本」
研究分野における「基本書」だ。それぞれの学問分野で土台となっていたり、古典扱いされている本は速読しません。反対に「精読」すべき本です。「精読」ができるからこそ「速読」もできるようになる。
飛ばし読みなどせず、一文一文をかみしめて、次にどのような論理が展開されてゆくのか、と予想しながら文章を読んでいく。
集中力が途切れてしまいそうになったら、声に出して読む。「基本書」は、3回くらいは読み返します。
(3)「速読できない本」
小説や詩です。
俳句や短歌、漢詩や古文を「速読」して、何が楽しいのでしょうか?
もともと本は味わって読むもの。
愉しむ時間を、わざわざ短縮しては本末転倒である。
「速読術」がもてはやされる現代日本。
私たちは仕事や時間に追われている。
「本をゆっくり読むことができる」
それは、優雅で幸せな時間なのかもしれない。
ー岡崎 匡史