水と平和
From:岡崎 匡史
研究室より
世界の文明は、水によって発展と没落を繰り返してきた。
水が多すぎると洪水が起こり、水が少ないと干ばつが起こる。水を管理することの重要性は、歴史を見れば明らかである。
水不足の危機が迫りくるなかで、日本はどのような存在感をアジアと世界に対して示すことができるのか。
国際河川は、紛争を巻き起こすと同時に、国々を結びつける役割を果たす。水を奪い合うよりも、水によって相互依存を深め協力したほうが合理的であり、国益の保全にもつながる。
水協定
欧州同盟(EU)は各国が協力することで河川の水質基準を高めてきた。各国間の利益を調停し、水協定を作成するには長い年月がかかる。
たとえば、インダス河協定は10年、ナイル河流域イニシアティブは20年、ヨルダン協定は40年の歳月をかけて作られた。
21世紀、はたして水戦争を防ぐことができるのだろうか。水による全面戦争の可能性に懐疑的な論者もいる。
「なぜ水をめぐって戦争をする必要があるのだろうか? 一週間の戦争に要する資金で、塩分除去施設を5つも設置することができる。人命も失われず、国際的な圧力も生じない。他国と敵対する心配もなく確実な資源供給を受けることもできる」
しかし、海水淡水化の道のりは険しい。現在、海水淡水化が世界の取水量に占める割合は1%未満。 海水から塩分を取り除く淡水化プラントは非常に高価な技術であり、裕福な国でしか導入することはできない。
淡水化プラントを導入し国家の水道政策としている国は、中東の産油国であるサウジアラビアやイスラエル、あるいはカリブ海諸国の一部である。
水浄化技術
水危機は、人間が利用できる淡水が限られていることに根源的な問題がある。地球上の水の大部分は海水として存在している。この膨大な塩水から真水を安く作ることができれば、水資源をめぐって争いが起きることはないだろう。
ケネディ元米国大統領は、「もしわれわれがいつか競争力ある低い料金で海水から淡水を得ることができるようになるならば、人類の長期的な利益となり、ほかのすべての科学的偉業が実に小さく見えてしまうだろう」と述べている。
いみじくも、米国の国家情報会議(NIC)は、「安価でエネルギー効率に優れた清浄水技術を開発し普及させる先行成功者が極めて大きな地政学的優位を手にすることができる」と分析。
海水淡水化技術は難題を抱えているが、それでもなお、日本の水浄化技術は世界の最先端を走っている。
水は、平和をもたらす使者。高い技術をもっている日本が世界で清らかな水を安く供給すれば、浄化された水の流れが、「心のきずな」として、世界を結びつけてくれる。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
国連開発計画『国連開発計画(UNDP) 人間開発報告書2006』(国際協力出版会、2007年)
ヘザー・L・ビーチほか『国際水紛争事典』(アサヒビール、2003年)
モード・バーロウ『ウォーター・ビジネス』(作品社、2008年)
米国国家情報会議編『グローバル・トレンド2025』(並木書房、2010年)
サンドラ・ポステル『水不足が世界を脅かす』(家の光協会、2000年)