本との出逢い


From:岡崎 匡史
研究室より

人生で何度も読み返す本がる。
そんな、本に出逢えたら幸せだ。

今日は、私の幸せをあなたに分けてあげたい。それは、イスラム学の泰斗・井筒俊彦(1914〜1993)のエッセイ集『読むと書く』です。

井筒俊彦は、30ヵ国以上の言語を操り、東西の思想に造詣が深く、イスラム教の聖典『コーラン』を和訳したことでも知られる天才。研究を志した者なら、一度は憧れる存在だ。

そんな井筒の追憶をまじえた「教師論」を紹介しよう。


「よき友を得ることは難しい。だが、学に志す人間が一人の良師に出逢うことはもっとめずらしいことなのではなかろうか。職業的な『先生』ならいくらでもいる。青春の意気にはやり立って大学に入った私の前に無数の先生たちがずらりと居らなんでいた。だが、誰一人私を満足させなかった。私は失望した。学問とはこんなものだったのか。おそらく私は学者などというものになることを、あっさり思い切っていたことだろう、もしもあの時、たった一人、本当にこれこそ先生だと感じるような人物に出逢っていなかったならば」


井筒のエッセイは、堅苦しくない。彼の文章に出逢ったのは、殺虫剤をかけられたゴキブリのように、私が大学院の勉強で窒息死しそうなときだった。

良師との出会い

私は人生の出逢いに恵まれていると思う。
人生の出逢いは将来の行く末を大きく左右する。

学問を志す者にとって、良師との出逢いは何事にも代え難い大切なものだ。

学術書を読んで初めて鳥肌が立ったのは、大学3回生を迎える春休みのときだった。夢中で読んでいた本が、西先生の『國破れてマッカーサー』である。

いまでは中央公論から文庫版がでているが、当時は単行本で定価が2400円。貧乏学生にとって、本に2000円以上を注ぎ込む余裕はない。だが偶然、近所のブックオフで半額になって売られていた、、、

本と縁


家に帰りベットで横になって本を読み出すと、分厚い学術書なのに小説を読んでいるかのように感覚に襲われた。身体は熱くなるし、神風特攻隊の戦闘を読んでくると涙がこぼれ落ちそうになった。私のなかで、何かが変わった、、、

一冊の本を読んで私の人生が決まったといって過言ではない。この人のような研究者になりたいと憧れて、西先生の門戸を叩いた。

いまでは懐かしい思い出だ。

縁を生かすも殺すも人。

「小才は縁に出会いて縁に気付かず、中才は縁に気付いて縁を生かさず、大才は袖すり合うだけの縁をも生かす」という。

書物との一遇でも、人生は大きく変わるはずだ。

出逢いがないと嘆いているあなたに。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
井筒俊彦『読むと書くー井筒俊彦エッセイ集』若松英輔編(慶応義塾大学出版会、2009年)

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