歴史 2017/12/30

フーヴァー研究所東京オフィス秘話⑤


From:岡崎 匡史
研究室より

フーヴァー研究所東京オフィス秘話ー④のつづき


駿河台の東京オフィスに日本全国の貴重な記録や書籍が集められ、スタンフォードへと運搬されていく。

最初の発送は1946(昭和21)年3月。東京オフィスが開設された1945(昭和20)年11月から1951(昭和26)年3月1日まで、書籍・専門書・新聞などを含む合計1468箱がフーヴァー研究所に送られた。

フーヴァー研究所に届いた文献は、アメリカ議会図書館分類表に従って整理され、本のタイトルは日本語・ローマ字・英語で表記された。コレクションは拡大していき、日本の政治・経済・社会・文化・徳川時代の文献だけでなく、中国の共産党と国民党の動乱や極東地域まで範囲が広がった。

戦渦を免れた史料

東京オフィスは、中国語の文献も購入している。なぜなら、1949年に毛沢東(1893〜1976)の主導のもと中華人民共和国が建国されたので、中国語の文献入手が困難になると予想されたからだ。東京オフィスは、1912年の中華民国成立前後に関する数千冊にものぼる書籍や文書を入手。

さらに、革命家の孫文(1886〜1925・中華民国初代臨時大総統)、アジア主義を唱えた玄洋社の頭山満(1855〜1944)、政治家の近衛篤麿(1863〜1904・貴族院議長・学習院院長を歴任)、五・一五事件で暗殺された犬養毅(1855〜1932・第29代内閣総理大臣)をはじめとする各界の人物、中国における共産主義運動に関する文書を蒐集した。

興味深い資料は極東軍事裁判(東京裁判)で起訴された人物の供述書だ。東京裁判で事務総局をしていたジョージ・W・ハンリー大佐(George W. Hanley)から資料が提供された。現在、フーヴァー研究所の日本近代史文書(Japanese Modern History Manuscript Collection)のBox 64〜67にかけて東京裁判の史料は保管されている。


チベット研究


東京オフィスの活動はこれだけではない。

スタンフォード大学の図書館閲覧用に、日本と中国の歴史・文化・文学に関する1000冊以上もの著作を購入。これらの文献はスタンフォード大学図書館に送られ、そのなかには貴重なチベット仏教の聖典のコピーも含まれている。

チベット仏教の聖典は、チベットで修行しダライ・ラマ13世(1876〜1933)からも重用された僧侶多田等観(ただとうかん・1890〜1967)から寄付されたものだ。

この寄付の背景には、蔵書助言委員会のメンバーであるヒューバート・G・シュンクと徳澤龍潭(とくざわりゅうたん)の助力があったとされる。具体的な助力の内容は不明だが、その後、多田等観はスタンフォード大学アジア研究所から招聘され、2年間アメリカで研究生活を過ごした。


フーヴァー研究所東京オフィス秘話ー⑥につづく

ー岡崎 匡史

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