経済 2018/03/13

日本兵とパプア・ニューギニア人の絆




はじめに


あの美しい南太平洋が、これから資源戦争、そして米中覇権争いの「主戦場」となる。
そしてその戦いの結果は、日本にとっては厳しいものになる……。


これは、この10年間、パプアニューギニアやオーストラリアを中心にして南太平洋情勢を見つめてきた者としての、確信に近い感想である。
このことを7年以上も前から、いろいろな政治家や経営者たちに言い続けてきたが、関心を持つ人はごくわずかだった。


なぜなら、ほとんどの日本人にとって、南太平洋といえば茫洋とした美しい海が広がり、ヤシの木々が茂る白い砂浜が続いているだけで、新婚旅行やスキューバーダイビングに行くのはいいかもしれないが、それ以外にめぼしいものは何もない、という程度の場所だからである。


しかし、この認識は明らかに間違っているし、日本の将来を考える上では「危険」ですらある。


なぜなら、地政学的にも日本の「裏庭」に位置している南太平洋地域は、日本に大量の食料や資源を供給しているオーストラリアとの間の海上交通(シーレーン)の要所であると同時に、日本が必要とする資源の多くが手つかずのまま眠っている「未開発地域」でもあるからだ。


事実、この地域は現在、世界有数の「巨大資源地帯」として注目されており、各国政府や資源メジャーが熱い視線を注いでいる。
そしてそんな南太平洋地域の安定を脅かしつつあるのが、急激な海洋進出政策を推進する、中国の存在である。


南太平洋島島嶼国といえば「親日国家」の集まりである。
しかしここ数年、中国が「政・官・財・業・軍」のすべての資源を惜しみなくこの地域に投じ続けてきた結果、貧しかったそれらの島嶼国の多くが中国の進出を受け入れるようになり、資源争奪戦の最前線と化しつつある。


これによって、南太平洋地域は、かつては考えられなかったような「米中覇権争い」の新たな「主戦場」となりつつあるのだが、当の日本は充分な対策を打ち出すことができていないのである。


1日も早くこの厳しい現実を直視し、ただちに具体的な対策を実行しなければ、日本はやがて取り返しのつかない過ちを犯すことになるだろう。


私は今、凄まじい勢いで変化する南太平洋の戦略環境やその重要性を何としても日本人に伝え、何がしかの提言をせねばならないとの思いからこの文章を書いているが、そんな本題に入る前に、なぜ私自身がここまで南太平洋の問題に関わるようになったのか、その「きっかけ」を説明させていただきたい。


キーワードは「日本軍将兵とパプアニューギニア人が築いた絆」と、そこから生まれた「親日の情」であった。



平成25年7月25日発行
丸谷元人著『日本の南洋戦略』
はじめに  pp. 1-2


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